一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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アートと文化と環境と[2]
パブリックスペースをアートで多元化する:ニューヨークの試み
工藤安代 | NPO法人アート&ソサイエティ研究センター代表理事

ニューヨーク市はパブリックスペースにアートを積極的に取り入れている。その歴史を紐解くと、1967年から始まった市の公園局(現在の公園レクレーション局)による「公園のアートプログラム(Art in the Parks Program)」まで遡る。1982年には公共施設予算の1パーセントをアートに充てる「アートのためパーセント(Percent for Art)」を制度化し、翌年には交通局による取り組みが続いた。現在では公民による様々な試みが実行され、ニューヨークの街は文字通り"アートで溢れた"都市である。

米国を代表する文化都市として、ニューヨーク市が公的にアートを街に取り入れてからすでに半世紀が過ぎる。その傾向は21世紀に入り、ブルームバーグ市政期に爆発的に広がっていった。NYでの事例を見ていくことで、「アートはなぜ現代都市に必要とされるのか?」という日本社会への問いかけに役立つヒントがあるのではないか?早すぎる変化のなかで複雑化する社会、論理的思考での問題解決が行き詰まり、直感的・感性的アプローチが期待される社会、不安定で不確実性が高まる社会において、アートは「飾り物」という価値を越えて、未来の社会のビジョンを描くうえで、生き生きと新しい血を巡らせ、イノベーションをもたらす活力になるかもしれない。

パブリックスペースにアートを展示する意味は、時代の推移と共に変わってきた。今日では都市のブランディングという役割に加え、社会の多様性を表わそうとする意味も大きい。様々な文化的背景を持つ誰もがアクセス可能な場であり排除されることのない平等性や、人間の自由な表現活動を認める場として、社会の包容力や寛容性を示す意味を持つ。多様な人びとが共生できる社会を形成していくことが、実は都市のレジリエンスを高めることにつながるからだ。

とはいえ、アートにはお金もかかる。そのための資金調達は米国らしい工夫がなされている。行政だけではなく民間を取り込んで、公民の協業という形を巧みに実現させているのだ。

街と公園をアートでつなぐ

公園や広場の再生事業において、街路や周辺地域とつなげるには行政の縦割り構造を変える必要がある。マンハッタンでの公園再生には柵を取り払い公園と街路をシームレスにつなげる試みがなされて久しいが、心理的にバリアフリーとするために、アートプログラムが積極的に取り入れられている。公民のパートナーシップによる公園の管理・運営がなされ、アートプログラムに専門家を雇用している公園も現れている。

≪NY市公園レクレーション局の公園アート・プログラム ≫
プログラムは1967年に開始された。常設コレクションとして800を超える公共記念碑があり、公園にアートを仮設展示するプログラムでは、1年未満(通常は3─6ヵ月間)の現代彫刻作品や実験的アートの設置をサポートしている。NY市内にある公園はすべて対象となり、アートにより公園の美化や活気づけを目的に加え、社会的交流をもたらすアーティスティックなプロジェクトが求められる。

・マディソン・スクエア公園
マディソン・スクエア公園は、マンハッタンのマディソン街とブロードウェイに挟まれた23─26丁目に位置する都市公園。公園を管理するのは「マディソン・スクエア公園保全非営利法人」で、ニューヨーク市公園局と連携して、公園内の植栽整備や安全管理を行なう。アートプログラムも充実しており、アートキュレーターを置いて、国際的なアーティストや新人アーティストの招聘をし、実験的な作品を公園内に実現させてきた。展示期間は約3ヵ月程度。運営資金は公園局の他、ニューヨーク文化部門による公的サポートの他に、民間企業、財団、基金などからの寄付による。


マディソン・スクエア公園
テレジア・フェルナンディス《 蜃気楼》 2015.6/1-2016.1/10
ミラーの透かし彫刻が夏の日差しをさえぎる機能を兼ねそなえ、半年あまり公園の空を覆い修景を映し出す。支援:ゲルマン財団

・セントラルパーク:ドリス・C・フリードマン・プラザ
NYでは、特定のテーマやミッションを持ったNPO団体が数を増やし、活動への資金提供者も積極的にプロジェクトそのものに関与するようになっている。

1977年設立の芸術NPO法人「Public Art Fund」もそうした追い風を受けて、2000年以降、急速に活動規模を広げている。セントラルパークの南東入口の広場にはPublic Art Fundの設立者の名前がついた〈ドリス C.フリードマン プラザ〉があり、現代アートの期間展示を運営・管理している。フリードマンは、人々が日常の環境の中でアートを体験し、美術館やギャラリーを超えて芸術にアクセスできるようにし、ニューヨーカーにとってより多くの機会を創出することを願い、こうした文化活動を始めたという。


セントラルパーク
フランツ・ウェスト《エゴとイド》2009.7/15-2010.8/31
国際的に評価の高いフランツ・ウェストによる最大のアルミニウム製彫刻。スツールとなり、通行人が小休憩できる

トライベッカ公園
ニコラス・ホリバー《ゴリアテの頭》2015.5/4-9/15
街から出た端材や再利用物が組み合わされる。ホリバーは「ニューヨークの公園で作品を展示するのは、街の環境が彫刻に与える影響を観察する格好のチャンスだ」とこのプログラムの魅力を語った
街路を広場へ ─歩行者空間の魅力を上げる─

ハイライン
マンハッタンのウエスト地区の廃線となった高架鉄道跡を都市公園に再生し誕生した「ハイライン」。世界中からNYを訪れる観光客に人気のスポットで、周辺の不動産開発も急速に進み、高級コンドミニアムやホテル、ブティックやレストランができ、200軒以上の現代アートギャラリーが立ち並ぶチェルシー地区の真ん中を横断している。東京銀座周辺の高速道路(KK線)を緑化し遊歩道とする計画のお手本となっている。地上9mの高さから眺める景観を楽しみながら街を歩く楽しみを味わえる。

ハイラインは地元住民により結成された「Friends of the High Line」により管理・運営されている。最南端にレンゾ・ピアノ設計によるホイットニー美術館がアッパーイーストから移転し、益々アート力が高まったこともあり、独自のユニークなアートプログラム「ハイラインアート」が展開されている。都市生活に不可欠な要素である対話を引き起こすことを目的として、ビデオアートやパフォーマンス、ビルボードを使った作品など、多様な表現のアートが定期的に企画される。資金は、全米芸術基金、NY州と市芸術基金などの公的資金の他、アマンダ&ドン・マレンによる民間支援を受けている。

2019年には、30丁目に広場「スパー(The Spur)」が完成し、人々が集えるこのスペースにて新たにアートプログラム"台座(The Plinth)"を始めた。18ヵ月間スパーに展示され、記念碑の定義を再考する様な現代アートを公募する試みだ。


ハイライン
サラ・ジー作《風景のある静物画》2011.6-2012.6
作品の小箱は小鳥や虫、蝶などのための水飲場。作品構成は3次元の透視図をイメージしている

ハイライン
ファヒーム・マジード作《フリーダムズ・スタンド》2022.9-2024.2
米国の黒人新聞の役割へのオマージュとしての作品。新聞の見出しや記事、写真、広告が展示。月ごとに内容が入れ替えられた

パメラ・ローゼンクランツ《古木》2023.5-2024秋
スパーに一年間展示された。写真提供:Empire State Development

スパーの第5、第6台座委員会の最終候補リストによる提案の展示風景(2024.3-6月)。
訪問者は実現してほしいプランをフィードバックできる。写真提供:Timothy Schenck

≪ニューヨーク市交通局によるアートプログラム:DOT Art≫
NY交通局はアートプログラムを2008年に開始した。以後、交通局の多様な所有地に期間限定(最大11ヵ月)のアート作品を展示している。対象地は美化が必要で、アート作品を展示するのに十分な広さがあり(共広場、歩道、中央分離帯、フェンス、橋梁等)、多様な人々がアクセスできることを条件とし、アーティストやパートナー組織、ギャラリーや非営利団体と連携してユニークなアート作品を展示している。

「DOT Art」は、興味を持つ組織やアーティストが自主的に提案書を提出することが前提となる。アート作品の設置をしたい場所を提案し、そのための全額資金を提供する責任がある。パートナー団体の支援がない場合、アーティストは応募する資格を得られない。交通局はプロジェクト費用を一部負担する他、作品設置の技術的サポートを行なう。

・サマーストリート:パークアベニュー公共彫刻プログラム
市交通局の主催によりパークアベニューでは8月の毎土曜日に車道を市民に開放する「サマーストリート」を実施している。期間中、マラソンやサイクリングをする人びとで溢れ、普段落ち着いたパークアベニューが活気づく。ニューヨーカーたちの背後には中央分離帯を舞台として、ユニークなアート作品が立ち並ぶ。パークアベニュー基金とNY市の公園レクレーション局により1999年から開始されたプログラムだ。著名な彫刻家の作品を2─4ヵ月、中央分地帯に連続的に展示していく。

民間開発と規制緩和で生まれた公共空間と現代アート

民間の所有地でありながら、公共空間として開放する公開空地は、日本でも数多く整備されている。NYではプラザボーナス制度(1961年)以降、民間の不動産開発によってできた民有公共空間(Privately Owned Public Spaces)が数多く開発された。それによって生まれたオープンスペースにもアートが活用されている。

・ロックフェラーセンター・プラザ
市内でもっとも有名な民有公共空間であるロックフェラーセンターの広場。多くの観光客が集まる観光スポットで展示されるアートがインパクトを与える。


ロックフェラーセンターのプラザ
ウーゴ・ロンディノーネ《ヒューマン・ネイチャー》2013.4/23-7/7
支援:ネスプレッソと非営利団体、スイス芸術評議会

・シーグラムビル・プラザ
ミース・ファン・デル・ローエが設計した歴史的建築「シーグラムビル」(1958年)。パークアベニューから大きくセットバックさせてつくった"プラザ"は、開発当時、都市のオープンスペースとして市民からも評判となり、不動産開発者にインセンティブを与える公開空地の発想を生み出し、その後のビル開発に大きな影響を与えた。実はシーグラムプラザは、ここ数年、巨大な現代美術インスタレーションの行列の舞台となっている。


シーグラムプラザ、パークアベニュー53丁目
ウスル・フィッシャー《Big Cray #4》2015.5/11-9/1
粘土を無造作に重ねたような巨大彫刻。今や世界一位の実力を誇るガゴシアン・ギャラリーが展示をサポートした。アートビジネスの力を活用し、高額の彫刻作品を公共空間に展示

・ワン・ヴァンダービルト
容積率緩和制度のもとで2020年にできた超高層ビル。尖塔を含む高さは427mで、NY市で4番目に高いビルとなる。グランドセントラル駅のすぐ西にあり、42丁目とヴァンダービルト・アベニューの角に位置する。最高階にある「SUMMIT」は、これまでの展望台の概念を変えるような、アートとテクノロジーの要素を融合したエンターテインメント施設。


ワン・ヴァンダービルドのエントランスロビー
トニー・クラッグによる常設作品が展示された

ワン・ヴァンダービルトビルとグランドセントラル駅をつなぐ空間
チームラボによるデジタルアート《永遠の今の中で連続する生と死Ⅱ》2020 が常設展示された

・ハドソンヤード
ハイラインの「スパー」の先には、米国で最大の250億ドルの民間開発事業で誕生したハドソンヤード。パブリック・スクエア&ガーデンはネルソン・バードウォルツ・ランドスケープアーキテクツの設計。アート作品はハドソンヤードの各ビル内にコミッションされており、商業モールとオフィスビルのエントランスといった屋外空間から中央広場まで、常設アート作品や期間展示作品までがシームレスに続いている。


10ハドソンヤード、西ロビー
ジョナサン・ボロフスキー作《人間の彫刻と意識の光》

30ハドソンヤードのロビー
ジャウマ・プレンサ《声─文字やその他の要素で作られた鋼鉄の球体─》
西側のエスカレーターの頂上に浮かぶ

ハドソンヤードの中央広場
エリー・ストリートアートによる壁画作品。
アートプログラム「HY×Off The Wall」の一環で制作された

都市のアートプログラムを活性化するには、公共だけではなく民間との協業が欠かせない。民間からの寄付を促がすための税制優遇制度も強いインセンティブとなる。日本ではどのような形があり得るのか?ひとつは企業によるふるさと納税などが取り組み易い形かもしれないが、税制上のより良いスキームを考えることが今後の課題となるだろう。

参考文献
中島直人編『ニューヨークのパブリックスペース・ムーブメント─公共空間からの都市改革』2024年、学芸出版社
撮影(提供写真以外):筆者
工藤 安代(くどう やすよ)
東京生まれ。南カルフォルニア大学大学院修士課程、埼玉大学大学院文化科学研究科博士後期課程を修了。民間会社にてパブリックアート事業に携わった後、2009年特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センターを設立。以後、社会・地域における芸術文化活動の情報発信・調査研究・実践活動に取り組む。国内外のアート活動を紹介する『Public Art Magazine』誌の発行やアーツカウンシル東京とのアートプロジェクト・アーカイブ事業を行なう。2021年アートプレイス株式会社代表取締役社長に就任。主な著作に『パブリックアート政策』、翻訳『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』など。