一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2008 芦原義信賞(新人賞)隙屋
AACA賞2008 芦原義信賞(新人賞)
隙屋

 温暖な浜名湖の環境なら「隙間だらけの納屋」でも住めるのではないかというのがこの家の出発点である。湖岸の景観をつくり、簡素だが豊かさをしみじみと感じられる住まいである。時代に逆行するが、設備よりも建築、建築よりも人間の感性に重きをおいた。高気密断熱の家ではなく、最小限のしつらえの究極のエコの家としたが、十分暖かい。冬季には隙間からの日照を内部に蓄熱し、夏季には上部の連窓を開放して湖面を渡る涼風を引き入れる。屋根は離瓦を使い、瓦下の通気を図り温度を下げ、現代に生きる新機能とデザイン性を得た。崖地の構造物の滑り止めの地階は外断熱のRC造で、湖へ開くトンネルから通風と採光と眺望を得る。視覚ばかりか潮風や潮の香りが聴覚や臭覚を刺激する。日が暮れると光が初源的な建築を浮かび上がらせ、今まで経験したことのない建築空間へと飛躍させる。会話が弾み、コミュニケーションをショートさせる触媒としての空間である。

作 者:鈴木幸治

選評
「隙間だらけの納屋」
 すぐれた建築に出会うと余韻嫋々として情感が充たされる。棲み方にこだわりのあるクライアントと、クライアントのイメージを技術的、資金的な回答を誠実に模索、具体化する建築家とのコラボレーションが実って、自然により近い生活、作業、開いた接客の場が生まれた。 永年積み重ねられた知恵によって引き継がれるシンプルな形態とスケールの<納屋>をテーマに、エコを意識した離瓦の屋根、唐突とも見えるRCの風と潮騒の通り道は、その地形に馴染んでいる。ポリカーボネートの外皮は光に反射して金属の様相をも見せるし、近くでは内皮が木のスリット横張りだと解る。9尺グリッド、5寸角柱2層軸組みの伽藍空間には、光と影によって醸成される旨い空気が広がる。遠景、近景は印象を変え、太陽、月に刻々と感応するこの納屋の姿、隙間空間は、自然の恵みのカタリスト、触媒である。前庭のアウトスケール、ガラスの細長いテーブルは浜名湖を正面に見渡す。実は土台が斜面の土留めの役割をしていると伺った。料理達者なクライアントがこのテーブルでゲストをもてなすらしい。 私事ですが、京都迎賓館(設計:日建設計)の、あかり行灯計画に携わり<光を梱み 影を織る>という私のテーマに響く作品を拝見し、今回夜景を鑑賞する機会は無かったが、その美しい姿を想像するのはそう難しい事ではない。
選考委員 川上喜三郎