一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2011 特別賞山古志闘牛場リニューアル
AACA賞2011 特別賞
山古志闘牛場リニューアル

作 者:山下秀之+江尻憲泰/長岡造形大学/大原技術(株)

選評
 これは中越地震(2004年)で被災した山古志の人々が復興を願って行った闘牛場のリニューアルである。江戸から続いた山古志の独自な闘牛(牛の角突き:重要無形民俗文化財)の「場もどし」でもある。
 闘牛の場は、山中のすがすがしいブナ林の中で、透明な空気が満ちた空間にある。
 神事(山古志の闘牛は神事とされてきた)にふさわしい空間のなかで、周囲との折り合いをつけて、幾分控え目な様相をして、闘牛場は坐り込んでいる。
 400年程続いてきた伝統行事の継続を願う地元民の熱い思いが、設計者の良心と意欲を駆り立て設計者の一所懸命さを感じさせるデザインとなって表われている。

計画当初、地元企画者の間にはドーム屋根建設案が浮上していたようであるが、設計者の良心はドームを拒否し、すり鉢状の傾斜地にオープンな階段式の観覧席を設けることを選んだ。すり鉢状の階段式観覧席(1階)の上には、RC造の空中観覧席と称する2階席が32度の傾斜角で、二手にわかれ隔てて設けられている。この2階席は多数の観覧者の収容と同時に雨やどりの空間を産み出し、かつ観覧席の上げ裏ボードウォーク・ギャラリーによって被災者を励ます全国からのメッセージを伝える役割を果たしている。
 上げ裏に張られたボードは, リニューアル以前まで闘牛場に敷かれていたボードウォークで、来場者達の励ましの文や絵が書かれていたものである。これらの設計企画に対して素直に拍手をおくる。
 闘牛場に向かうアプローチの坂道にそって、RC造の壁面によるメモリアル・ギャラリーが続く。それは山古志の「牛の角突き」の記憶、山古志の人々が培ってきた土地の記憶、そして中越地震の災害の記憶を発信している。
 震災からの復興を願って行われた山古志闘牛場のリニューアルプロジェクトの実現は、地元民の綿綿と続いた熱い思いのエネルギーと、地域にとけ込み生活を共にした設計者の良心とデザインセンスとが、うまくかみ合った結果であると感じさせられた作品である。

aaca賞特別賞を贈るに値する作品であると現地審査を行った選考委員の共通した評価である。地元民にも賞を贈りたい思いである。
選考委員 日高單也