一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2014 芦原義信賞(新人賞)特別賞MECENAT ART PROJECT
AACA賞2014 芦原義信賞(新人賞)特別賞
MECENAT ART PROJECT

作 者:中薗哲也・名和研二

所在地:広島県東広島市黒瀬町楢原276-7

選評
 広島県を代表する日本画家である其阿弥赫土氏はその自然に魅せられてアトリエを黒瀬町に移したという。彼の作品だけを展示するための、この美術館はその黒瀬町にある。現地に着いた私たちが入口を探しているところに、 隣家と思しき歯科医院から院長先生が建築家より先に現れ、この建築のありようを熱っぽく語ってくださった。彼は其阿弥氏やその作品に惹かれてこの美術館を建てたのだ。
 歯科医院の入口が美術館の入り口である。多くの絵が展示されている医院の中を通り抜けて美術館に入る。
 その瞬間、空間に広がる柔らかい光を感じる。其阿弥氏の絵に共通する光である。ここを包む壁は一折れの紙を、敷地の形状に沿って幾枚も並べた様に構成されている。
 壁と壁の間の細いスリットからも光がしみ込む。屋根に大きく開けられた開口からは強い光が入ってくるのだが、箱状のシリンダーが光を制御していて、2階床のガラス面を通して 1階にも明るい光が導かれている。壁面に星の光の形のように埋め込まれた板ガラスからも淡い光が漏れ、作品を引き立てる。この建築には冷暖房はない。通り抜ける風が心地よい気候を創りだす。この空間に大きな性格を与えたのが構造だ。自重を軽くするため2階の床は中央部を切り取り、軽快な放射状の鉄骨の張弦梁に木とガラスの板を載せてある。同様に屋根の中央部も躯体を切り取り、鉄骨でトップライトのガラスを支えている。自然の光と風を自由に取り入れたいという目的を、その構造がさりげなく支えたという秀逸な作品である。
 この作者は、AACA賞を受賞した作品の作者でもある。同一の応募者に複数の賞を授与した例は今までないが、新人としても芦原義信賞にふさわしいと判断され、特別賞が贈られることになった。
選考委員 可児才介