一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2016 芦原義信賞(新人賞)富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー
AACA賞2016 芦原義信賞(新人賞)
富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー

作 者:平瀬有人(佐賀大学大学院工学系研究科准教授・yHa architects)
平瀬祐子(yHa architects)

所在地:佐賀県鹿島市浜町1244-1

選評
 佐賀県の富久千代酒造は大正期創業で、敷地には母屋、精米所、貯蔵蔵、麹室、米倉庫、設備棟等が隣接してあり登録有形文化財に指定されている。近年銘柄「鍋島」が世界一の評価を得て多くの来訪者を迎えるようになった。この酒造ギャラリーは1921年建築の旧精米所であり、隣の設備棟に構造的にもたれかかり大きく傾いた状態だった。設計者は、有形文化財ゆえの制約が多い中、屋根の軽量化と曵き起こしにより傾きを修正した上で、外壁を焼き杉板で張り直し新たな耐震補強設計をした。 それは来訪者の為の新しい避難シェルターともいえる強固な箱を入れ子状に挿入し、梁に接合補強するという大胆な手法である。年暦を重ねた木造の柱や梁、土壁をも可能な限り残し立ち上がった空間に、新たに挿入された箱は12mmの黒皮鉄板に様々な大きさの開口が4mmのリブで補強され、出入り口や展示の棚となるオフセットした空間である。大小の開口は、蓄積され実在する過ぎたエイジングの様を観る窓であり、これからのエイジングを重ねて観る建築的仕掛けである。丹念につくられたお酒の試飲という一時の行為と、建築がもつ時間と空間の積層を肌で味わい感じる行為が、随所に工夫された建築的介入によって誘導され、新たな感覚を覚醒させるような明快で巧みなギャラリー空間となっている。
 2012年の母屋の改修を皮切りに、断続的に8回に及ぶ改修が進められて現在も続いている。こうした魅力的なリノベーションが、備前浜の町並み保存再生の一環として大きな役割を果たしている事を加えて高く評価したい。
選考委員 藤江和子