一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2016 審査総評
 本年より審査委員長をお引き受けして、初めての審査となりましたが、多くのベテランの審査員の方々に助けられて、無事に審査を終えることができました。ありがとうございます。
 AACA賞のユニークさについてはかねてより敬意を抱いておりましたが、本年の実に多様な幅広い応募作品を見るにつけ、通常の建築賞、芸術賞にはない、建築と美術と工芸の結びつきやその存在理由を問う、この賞の独特のアイデンティティを再認識しました。建築だけでもなく、アートだけでもなく、その双方の相乗性がまさに重要なテーマになっていると思います。
 そんな中で、今年のAACA賞に輝いたのが《G.Itoya(銀座・伊東屋)》で、なじみ深い銀座中央通りに建ち、他が商業的な装いで妍を競う中で、凜とした建築それ自体が洗練された「彫刻」とも言えるような佇まいは、建築とアートが単純に足し合わされたものには生み出すことのできない、統合された力強さと美しさを感じます。まさにこの賞にふさわしいものでした。
 芦原義信賞および優秀3作品も、いずれ劣らぬ個性派ですが、なかでも芦原義信賞を獲得した《富久千代酒造 酒蔵改修ギャラリー》は、築90年以上の酒造会社の旧精米所を現代的に再生するもので、大変意欲的な挑戦作であると同時に、無垢の黒皮鉄板を用いた質感が古い建物に蓄積する年月と響き合って、見事な新旧の和音を奏でています。新人とは思われぬ力量で文句なく優秀賞の水準に達しており、見事な作品でした。
 優秀賞の《織物の茶室?下鴨神社・糺の森》は繰り出された絹の糸を張った庵が、移ろう陽の光の中で忽然と現れ、忽然と姿を消す儚さとあいまって、現代的な日本の美を体現しています。分けても実際にその中に人が入り一幅の茶をたしなむ光景は、建築とアート、さらに人の織りなす鮮やかな造形となっており、木漏れ日や吹き渡る風や鳥の音などを纏ってさらに一段と映えています。
 同じく優秀賞《ヤマノイエ》も含めてこれまでの3作はいずれも若い世代の作家によるものですが、とくにこの作品には新人離れした成熟した密度がありました。敷地環境に恵まれているとはいえ、これだけの変化に富んだ空間を斜面に破綻なく配置し、その各所に居心地の良さをもたらした手腕は稀有のものです。
 優秀賞残り1作は《MIZKAN MUSEUM》、下見板張りと三州瓦の屋根並みの中に、しっくりと溶け込んだ外観には、見る者を納得させる存在感と街並みに調和する優しさが感じられます。そこには単に既存に埋没させるのではなく、周囲と拮抗して新しい調和を生む力強いフィロソフィーが感じられます。
 特別賞2点《北菓楼札幌本館》と《東京ガーデンテラス紀尾井町パブリックアート計画》は、それぞれに異なる特異なアプローチがなされていますが、奇しくも既存建築をリスペクトして保存する計画を含んでいる点が共通しています。対照的なのは片や内部に新たな造形を挿入、片や外部に変化に富んだランドスケープをデザインしたところですが、いずれも新旧の要素が相乗的に働いてまったく新しい人々のアクティビティを生んでいます。
 結びに、これだけのバラエティに富んだ入賞作品を顕彰できたことを大変うれしく思います。来年も大いに期待しています。

選考委員長 古谷 誠章