一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2019 優秀賞UTSUROI TSUCHIYA ANNEX
AACA賞2019 優秀賞
UTSUROI TSUCHIYA ANNEX

作 者:垣田博之

所在地:兵庫県豊岡市城崎町湯島字湯之元584-1

写真撮影 母倉知樹
写真撮影 母倉知樹
写真撮影 母倉知樹
選評
 この建築は平安時代から続く城崎温泉の温泉街の奥、大谿川を越えたところに散策する人々の流れを気持ちよく受け止めるように佇んでいる。しかし以前は、古い消防署がこの温泉街の突き当りに唐突に存在していたことで、景観的には少し違和感のある印象であったと思われる。この計画は、近年使われなくなった旧消防署を有効利用するために市が主催した公募プロポーザルで選ばれている。
 この建築はその場所性からこれからの城崎温泉の発展にとって、重要な場所に位置していることがわかる。設計者は温泉街全体におけるこの場所のあり方を熟慮し、既存の消防署の建築をリノベーションすることで、風景を唐突に変えることなく緩やかに景観を変化させる手法で爽やかな解決策を見出している。
 その一つは、この地域に特徴的な霧の空気感を建築のテーマとした「川霧」という名前で呼ぶステンレスメッシュのスクリーンで、余分な要素を一旦削ぎ落とした既存の建築を包み込んでいる。このスクリーンは工業用ベルトコンベアのステンレスメッシュを利用した素材で、ローコストでありながら、日本建築の簾の持つ豊かな半透明性を耐久性に優れた現代の技術で表現している。
 実際に現地審査に訪れた日は、この地域特有の小雨まじりの天気であったが、「川霧」メッシュによって「うつろい」と空間の「奥行き」を実感する事ができた。また旧消防署の機能から生まれている天井高や床高の変化を利用し、城崎出身の日本画家山田毅氏の地域を描いた風景画の壁面とカフェや前面のデッキに佇む人の心地よい関係が巧みに計画されている。1階奥の壁やメッシュ越に見える2階客室の壁面絵画が通りから後退した建物の前面デッキ空間とともにこの場所に温泉街の突き当りの風景を和らげる爽やかな「奥性」をもたらしていることが実感できる。設計者の力量は建具やメッシュの精緻な収まりのディテールなどから伺えるが、「街の風景、地元の風景絵画の壁面と一体化した建築と美術の融合がもたらす豊かさ」を実現するためにあるという理念を持つこの建築はAACA賞優秀賞に相応しい作品である。
選考委員 堀越英嗣