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AACA賞2019
奨励賞
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日本橋旧テーラー堀屋改修
AACA賞2019 奨励賞
日本橋旧テーラー堀屋改修
作 者:三井嶺
所在地:東京都中央区日本橋本町3-6-5
写真撮影 三井 嶺
写真撮影 三井 嶺
写真撮影 三井 嶺
選評
本建物は、近年発展が著しい日本橋の、高層ビルに両側をはさまれている小さな事例である。
築88年にもなるという木造2階建(実際は2階+ロフト)の、いわゆるこの時代の看板建築の耐震補強+改修であり、2階以上を住宅とする計画と共に、1階のテナントスペース(江戸切子の店)を如何に開放的な空間とするかを第一の建築的課題としている。現地を訪れると、その設定の正しさが実感された。
一般に言えば、耐震補強に限らず、ブレースや壁体抵抗が容易な木造において、開口部を大きくとることは容易ではない。ここでは既存部分の本来の構造性能や材料の劣化を考えて、木材の再利用は行わず、新しいラーメン的な門型補強とする。これを「解」とし、追加する耐震要素により、すべての地震力を負担できるよう構造計画が進められた。まず、1階の層せん断力を6つの補強フレーム(12ピース)で負担できるよう、必要な耐力と剛性が決定された。この補強フレームには鉛直力を伝えず、水平力のみを期待することとし、既存の柱は従来通り鉛直力を支えている。つぎなる問題はこの補強フレームをどうデザインするかであり、実現に至る「物語」がこのプロジェクトの最大の魅力となっていよう。
設計者は木の軽さと鉄の強度に注目した。木造を細い網目のようなフレームにしてみたらどうか、と。必要最低限の断面をもつ繊細な形状をシームレスにつくるには「鋳鉄」が最適だという判断が以降の計画・設計・生産・施工を導いている。その中でもダクタイル鋳鉄(形状黒鉛鋳鉄)は通常の鋳鉄よりも変形性能と強度が高い上、凝固収縮量が小さく融点が低いため流動性にすぐれている。今回のフレームが求める繊細かつ高精度を満足させる素材としてこれが選ばれた。
補強フレームの全体形状を決めるに当たって、制約条件のひとつに人力で持ち上がる重量(60kgf以下)があげられている。直交する外周をつなぐ6本の斜め材が形成する内側尾アーチ形状はいわゆる双曲線であり、平面曲線でありながら奥行きを感じさせ、流動的な空間を演出している。直交2本(楕円断面)と斜め6本(円形断面)の好転は意匠的な表現だけではなく、発生応力に対応して巾・奥行両方向に滑らかな曲面状の「節」となり、有機的な美しさを漂わせている。一連の複雑な形態創成を迅速かつ適格にコントロールできたのは全て3Dモデリング、つまりパラメトリックモデリングツール(Grasshopper)の活用によるものという。最先端を行くIT技術の巧みな応用例である。
再利用を考慮したというボルト接合のディテールやRCの柱脚のシンプルなデザインにも好感がもたれた。鋳物設計・製作・建方を通じて設計者・製造者・施工者の3者が初期段階から十分な意思疎通を計ったことが成功の鍵となっている。
小さな改修事例ではあるが、建築家と構造家が情熱と創意をもって取り組み、新しい可能性を拓いた魅力的なプロジェクトとして高く評価したい。
選考委員 斎藤公男
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築88年にもなるという木造2階建(実際は2階+ロフト)の、いわゆるこの時代の看板建築の耐震補強+改修であり、2階以上を住宅とする計画と共に、1階のテナントスペース(江戸切子の店)を如何に開放的な空間とするかを第一の建築的課題としている。現地を訪れると、その設定の正しさが実感された。
一般に言えば、耐震補強に限らず、ブレースや壁体抵抗が容易な木造において、開口部を大きくとることは容易ではない。ここでは既存部分の本来の構造性能や材料の劣化を考えて、木材の再利用は行わず、新しいラーメン的な門型補強とする。これを「解」とし、追加する耐震要素により、すべての地震力を負担できるよう構造計画が進められた。まず、1階の層せん断力を6つの補強フレーム(12ピース)で負担できるよう、必要な耐力と剛性が決定された。この補強フレームには鉛直力を伝えず、水平力のみを期待することとし、既存の柱は従来通り鉛直力を支えている。つぎなる問題はこの補強フレームをどうデザインするかであり、実現に至る「物語」がこのプロジェクトの最大の魅力となっていよう。
設計者は木の軽さと鉄の強度に注目した。木造を細い網目のようなフレームにしてみたらどうか、と。必要最低限の断面をもつ繊細な形状をシームレスにつくるには「鋳鉄」が最適だという判断が以降の計画・設計・生産・施工を導いている。その中でもダクタイル鋳鉄(形状黒鉛鋳鉄)は通常の鋳鉄よりも変形性能と強度が高い上、凝固収縮量が小さく融点が低いため流動性にすぐれている。今回のフレームが求める繊細かつ高精度を満足させる素材としてこれが選ばれた。
補強フレームの全体形状を決めるに当たって、制約条件のひとつに人力で持ち上がる重量(60kgf以下)があげられている。直交する外周をつなぐ6本の斜め材が形成する内側尾アーチ形状はいわゆる双曲線であり、平面曲線でありながら奥行きを感じさせ、流動的な空間を演出している。直交2本(楕円断面)と斜め6本(円形断面)の好転は意匠的な表現だけではなく、発生応力に対応して巾・奥行両方向に滑らかな曲面状の「節」となり、有機的な美しさを漂わせている。一連の複雑な形態創成を迅速かつ適格にコントロールできたのは全て3Dモデリング、つまりパラメトリックモデリングツール(Grasshopper)の活用によるものという。最先端を行くIT技術の巧みな応用例である。
再利用を考慮したというボルト接合のディテールやRCの柱脚のシンプルなデザインにも好感がもたれた。鋳物設計・製作・建方を通じて設計者・製造者・施工者の3者が初期段階から十分な意思疎通を計ったことが成功の鍵となっている。
小さな改修事例ではあるが、建築家と構造家が情熱と創意をもって取り組み、新しい可能性を拓いた魅力的なプロジェクトとして高く評価したい。