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AACA賞2021 審査総評
昨年に引き続きコロナ禍での審査となりましたが、一次審査は審査員が集まっての作品パネルによる選考、現地審査は審査員の人数を絞って実行し、公開による最終審査は応募者と審査員が一堂に会しての審査を終えることができました。なお、海外の審査員や体調などにより直接参加の難しかった審査員、応募者についてはWEBによる審査も並行する、オンライン、オフラインのハイブリッドの選考会とすることで、一人も欠かさず参加をいただくことができました。応募者各位をはじめ、準備に当たられた皆様にこの場を借りて改めてお礼を申し上げます。
今年も大変数多くの応募をいただき、また内容も多岐にわたる作品が集まりました。それだけに審査は時に難航しましたが、結果としてはAACA賞審査にふさわしいバラエティに富んだ審査会とすることができ、また力のこもった入賞作品を選出することができたと思います。
そうした中で、圧倒的多数の審査員の推薦により今年のAACA賞に選出されたのは、既存の信濃美術館を建て替えた《長野県立美術館》で、隣接する東山魁夷館と共に善光寺に隣接する公園内に、その地形の変化や周囲の環境との緻密な応答により構想された、建築の枠を超えて一帯のランドスケープを統合する素晴らしい作品です。
気鋭の新人に贈られる芦原義信賞には、斬新な三層のツリー状の木架構によって浮遊感と高揚感を生み出した《Agri Chapel》が選出され、まさに工芸品的な美しさを持つものとして、一次投票では長野県立美術館とともに審査員全員の投票を得るなど、極めて高い評価を得ました。
この両者に続く優秀賞もいずれも創意と魅力に溢れた《那須塩原市立図書館みるる》《A&A LIAM FUJI》の2作品に決まりました。前者はJR黒磯駅直近に建つ公共図書館で、駅前広場や周辺の街並みに続く開放感に溢れ、誰にでも親しみやすく、いつも多くの人々に使われています。また、特に2階部分の伸びやかな天井の造形は、一体感のある大らかさと無数のルーバーが緻密に割り付けられた周到なもので感服させられます。 後者は宿泊施設であり、三層の田の字のCLT構造が互いにずれながら積層し、ダイナミックな重層空間を生み出しています。ここに宿泊する体験は、さながら巨大なアート作品の内部に泊まる非日常感を味わえるものです。
これに対し、特別賞2点《有明体操競技場》と《葉山加地邸》は極めて個性的かつ対照的な2作品で、片やオリンピック・パラリンピック施設として仮設的に使用され、今後は転用される予定の競技場であり、他方はフランク・ロイド・ライトの日本における筆頭の弟子である遠藤新設計の旧宅の宿泊施設へのリノベーション作品です。 前者が、従来の競技場にはない、思い切った木の利用によるダイナミックで、かつ繊細な表情を併せ持つ作品で、また競技場のボリュームを軽やかに持ち上げて解放感を持たせた極めて秀逸な建築表現となっていました。
一方後者は葉山の自動車の寄りつけない斜面の上にあり、その分海の眺望の素晴らしい立地に、かつて邸宅として建てられた造りをそのまま生かして、宿泊可能な空間として現代に蘇らせたものです。遠藤新の空間を将来にわたって体験可能なものとして再生した意義は絶大なものです。
今年の奨励賞としては、以下の5作品が選ばれました。
まず《早稲田大学本庄高等学院体育館》は、普通なら大きな開口を取りながらややもすればカーテンが引かれがちな高校体育館に対して、全体をコンクリートの角丸のボックスで造り、そこに適宜丸窓を散在させる手法で体育館とは思われない外観を実現し、かつ内部にはやわらかい灯りを取り入れる意欲的な試みです。 《古家増築UPサイクル》は異様に細長い敷地の中で既存の住戸を包み込むような増築を行うという離れ業がユニークです。千葉大学の門前に建つ《ZOZO本社屋》は、オフィスをバックアップする種々の機能を地域に既存の店舗などを活用してまちと一体化する新しいオフィスの試みであり、《三栄建設鉄構事業本部新事務所》はボロノイ図形を立体化した鉄骨架構による空間が目を引く、鉄鋼関連の社員が働きがいを感じる事務所と言えます。残る1点の《地域に潜む文化と出会えるホテル》は那覇市内の大通りに面するビジネスホテルですが、リゾート目的やワーケーションに配慮して客室等に居心地をよくする工夫が溢れており、一味違う滞在を楽しめるものになっています。
最後に美術工芸賞は《能作新社屋・新工場》、錫の鋳造の鋳型をそのまま見せる収納庫が、それ自体が美術工芸品のような美しさを持ち、また同奨励賞に選ばれた《METALISM》は町工場の生み出す製品の魅力や可能性をアピールする大変意欲的な試みでした。
あいにくそれぞれを詳しく述べる紙幅がありませんが、今年もこのようにバラエティに富んだ多くの入賞作品を選出することができ、審査委員長としてとてもうれしく思います。
選考委員長 古谷 誠章
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AACA賞 TOP
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今年も大変数多くの応募をいただき、また内容も多岐にわたる作品が集まりました。それだけに審査は時に難航しましたが、結果としてはAACA賞審査にふさわしいバラエティに富んだ審査会とすることができ、また力のこもった入賞作品を選出することができたと思います。
そうした中で、圧倒的多数の審査員の推薦により今年のAACA賞に選出されたのは、既存の信濃美術館を建て替えた《長野県立美術館》で、隣接する東山魁夷館と共に善光寺に隣接する公園内に、その地形の変化や周囲の環境との緻密な応答により構想された、建築の枠を超えて一帯のランドスケープを統合する素晴らしい作品です。
気鋭の新人に贈られる芦原義信賞には、斬新な三層のツリー状の木架構によって浮遊感と高揚感を生み出した《Agri Chapel》が選出され、まさに工芸品的な美しさを持つものとして、一次投票では長野県立美術館とともに審査員全員の投票を得るなど、極めて高い評価を得ました。
この両者に続く優秀賞もいずれも創意と魅力に溢れた《那須塩原市立図書館みるる》《A&A LIAM FUJI》の2作品に決まりました。前者はJR黒磯駅直近に建つ公共図書館で、駅前広場や周辺の街並みに続く開放感に溢れ、誰にでも親しみやすく、いつも多くの人々に使われています。また、特に2階部分の伸びやかな天井の造形は、一体感のある大らかさと無数のルーバーが緻密に割り付けられた周到なもので感服させられます。 後者は宿泊施設であり、三層の田の字のCLT構造が互いにずれながら積層し、ダイナミックな重層空間を生み出しています。ここに宿泊する体験は、さながら巨大なアート作品の内部に泊まる非日常感を味わえるものです。
これに対し、特別賞2点《有明体操競技場》と《葉山加地邸》は極めて個性的かつ対照的な2作品で、片やオリンピック・パラリンピック施設として仮設的に使用され、今後は転用される予定の競技場であり、他方はフランク・ロイド・ライトの日本における筆頭の弟子である遠藤新設計の旧宅の宿泊施設へのリノベーション作品です。 前者が、従来の競技場にはない、思い切った木の利用によるダイナミックで、かつ繊細な表情を併せ持つ作品で、また競技場のボリュームを軽やかに持ち上げて解放感を持たせた極めて秀逸な建築表現となっていました。
一方後者は葉山の自動車の寄りつけない斜面の上にあり、その分海の眺望の素晴らしい立地に、かつて邸宅として建てられた造りをそのまま生かして、宿泊可能な空間として現代に蘇らせたものです。遠藤新の空間を将来にわたって体験可能なものとして再生した意義は絶大なものです。
今年の奨励賞としては、以下の5作品が選ばれました。
まず《早稲田大学本庄高等学院体育館》は、普通なら大きな開口を取りながらややもすればカーテンが引かれがちな高校体育館に対して、全体をコンクリートの角丸のボックスで造り、そこに適宜丸窓を散在させる手法で体育館とは思われない外観を実現し、かつ内部にはやわらかい灯りを取り入れる意欲的な試みです。 《古家増築UPサイクル》は異様に細長い敷地の中で既存の住戸を包み込むような増築を行うという離れ業がユニークです。千葉大学の門前に建つ《ZOZO本社屋》は、オフィスをバックアップする種々の機能を地域に既存の店舗などを活用してまちと一体化する新しいオフィスの試みであり、《三栄建設鉄構事業本部新事務所》はボロノイ図形を立体化した鉄骨架構による空間が目を引く、鉄鋼関連の社員が働きがいを感じる事務所と言えます。残る1点の《地域に潜む文化と出会えるホテル》は那覇市内の大通りに面するビジネスホテルですが、リゾート目的やワーケーションに配慮して客室等に居心地をよくする工夫が溢れており、一味違う滞在を楽しめるものになっています。
最後に美術工芸賞は《能作新社屋・新工場》、錫の鋳造の鋳型をそのまま見せる収納庫が、それ自体が美術工芸品のような美しさを持ち、また同奨励賞に選ばれた《METALISM》は町工場の生み出す製品の魅力や可能性をアピールする大変意欲的な試みでした。
あいにくそれぞれを詳しく述べる紙幅がありませんが、今年もこのようにバラエティに富んだ多くの入賞作品を選出することができ、審査委員長としてとてもうれしく思います。