一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2022 AACA賞写真家のスタジオ付き住宅
AACA賞2022 AACA賞
写真家のスタジオ付き住宅

これは、森の秩序に基づいてつくった動的な場である。写真家のスタジオ付き住宅では、仕事場としての緊張感を保つための建築的な工夫が求められた。
樹木の隙間を建築化し、Y字型のボリュームを持つこの建築は、その3 次曲面屋根とともに、動的な空間体験を与える。 住むことと働くことをシームレスに繋げることで、森のなかを移動し続け、その過程で新鮮で発見的な日常をもたらすことを意図した。
トップライトや曲面ガラスの開口部、中間領域としての蚊帳テラス、スタジオの壁面を構成する黒色塗料など、生活を支えるディテールはシンプルであることを追求し、滑らかな体験に奉仕している。 また寒冷地であることから、断熱・気密・床暖房のディテールにも気を配った。

作 者:仲俊治 宇野悠里

所在地:群馬県甘楽郡下仁田町西野牧

主要用途:住宅、写真スタジオ

敷地面積:1,388.74㎡ 建築面積:155.92㎡ 延床面積:155.92㎡

作品紹介ビデオを観る
Rの外壁に沿ったデスクと柱や間柱あわらしの背骨壁にはさまれたオフィス
写真撮影 鳥村鋼一
スタジオの右手の壁は黒色顔料仕上げで、光の当たり方によって表情を変える
写真撮影 鳥村鋼一
樹木の隙間に3方向に広がるヴォリュームをおき、梁の勾配変化による曲面屋根を架けた
写真撮影 鳥村鋼一
選評
晩秋の軽井沢に「写真家のスタジオ付き住宅」を訪ねた。
紅葉に染まる庭に、静かな佇まいで建っていた。設計家は「森の秩序に基づいてつくった動的な場」と、作品概要の冒頭に記している。敷地には存在感のある山桜が3本、ドッシリとあった。その樹木の隙間を縫い、Y字型のボリュームを持つ建物を配置し、三方からの壁面が支える構造となっていた。シンプルで明解な建築だ。また3次曲面屋根も有機的で、森の中にうまく溶け込んでいる。内部に入り、まず気付くのは自然との一体感だ。中央部の三角天井からトップライトの光が注ぐ。
曲面ガラスの開口部は、内と外の視角的、さらには心理的交歓が育まれる様に、小気味好い空間構成だ。曲面ガラスに添って続く卓上には、整頓された本やオブジェが並び、写真家の知的でセンシティブな人柄を感じた。選びぬかれたオブジェ群もさりげなく位置が与えられ、写真家の脳内配置図とピッタリ一致しているのだ。
私は彫刻制作を続ける中で出合った好きな言葉がある。
「彫刻は精神が物質に宿ることを可能にし、物質と空間と時間との結び付きを、科学的に証明するものだ。さらにそれを補足することができ、それも直接的な方法でだ。」
私は現地に立ち会い、スタジオとしても住宅としても魅力的で、住む人が楽しみながら大切に作り上げてきた空間と時間を感じた。
小舎な個人住宅だが、設計家の実力が存分に感じられ、他の多くの審査員の賛同を得、AACA賞に決定しました。
選考委員 米林雄一