AACA賞2022 AACA賞|写真家のスタジオ付き住宅
AACA賞2022 AACA賞
写真家のスタジオ付き住宅
これは、森の秩序に基づいてつくった動的な場である。写真家のスタジオ付き住宅では、仕事場としての緊張感を保つための建築的な工夫が求められた。
樹木の隙間を建築化し、Y字型のボリュームを持つこの建築は、その3 次曲面屋根とともに、動的な空間体験を与える。
住むことと働くことをシームレスに繋げることで、森のなかを移動し続け、その過程で新鮮で発見的な日常をもたらすことを意図した。
トップライトや曲面ガラスの開口部、中間領域としての蚊帳テラス、スタジオの壁面を構成する黒色塗料など、生活を支えるディテールはシンプルであることを追求し、滑らかな体験に奉仕している。
また寒冷地であることから、断熱・気密・床暖房のディテールにも気を配った。
紅葉に染まる庭に、静かな佇まいで建っていた。設計家は「森の秩序に基づいてつくった動的な場」と、作品概要の冒頭に記している。敷地には存在感のある山桜が3本、ドッシリとあった。その樹木の隙間を縫い、Y字型のボリュームを持つ建物を配置し、三方からの壁面が支える構造となっていた。シンプルで明解な建築だ。また3次曲面屋根も有機的で、森の中にうまく溶け込んでいる。内部に入り、まず気付くのは自然との一体感だ。中央部の三角天井からトップライトの光が注ぐ。
曲面ガラスの開口部は、内と外の視角的、さらには心理的交歓が育まれる様に、小気味好い空間構成だ。曲面ガラスに添って続く卓上には、整頓された本やオブジェが並び、写真家の知的でセンシティブな人柄を感じた。選びぬかれたオブジェ群もさりげなく位置が与えられ、写真家の脳内配置図とピッタリ一致しているのだ。
私は彫刻制作を続ける中で出合った好きな言葉がある。
「彫刻は精神が物質に宿ることを可能にし、物質と空間と時間との結び付きを、科学的に証明するものだ。さらにそれを補足することができ、それも直接的な方法でだ。」
私は現地に立ち会い、スタジオとしても住宅としても魅力的で、住む人が楽しみながら大切に作り上げてきた空間と時間を感じた。
小舎な個人住宅だが、設計家の実力が存分に感じられ、他の多くの審査員の賛同を得、AACA賞に決定しました。