一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2022 芦原義信賞(新人賞)山五十嵐こども園
AACA賞2022 芦原義信賞(新人賞)
山五十嵐こども園

「しぜんに、しぜんと」を理念とするこども園。
村の小道をくねくねと抜けた先の自然豊かな砂丘の頂に位置し、歩を進める毎にパラパラとシーンやニッチを展開し子供達に多様な拠所を提供する。
「この園、誰のため、何のため ?」をテーマとして、保育の研究者、保育士、父母、地域住民を巻込みワークショップを重ね、子供達や村のための園のあり方について対話を積み上げ、「村のように園をつくり、園のように村をそだてる」をビジョンとして定めた。
大きな材が運べない敷地条件のもと、現場で小さな材を組み合わせた木製トラスを作り、大きな保育空間を作った。トラスの交点を間仕切り壁の上からずらして載せることで、各室ごとに表情の異なる環境を作り出すと同時に、間仕切り壁の上部が抜け、それぞれの環境を緩やかにつなげている。
保育室、更には園舎、園庭を越えて周辺地域までを一つの連続体とした「大きな保育環境」を構築した。

作 者:東海林建 平野勇気

所在地:新潟県新潟市西区五十嵐三の町西

主要用途:幼保連携型認定こども園

敷地面積:6,995.16㎡ 建築面積:1,586.56㎡ 延床面積:1,101.58㎡

作品紹介ビデオを観る
5歳児室を見る。トラス交点と間仕切壁の位置がずれ、隣室同士の空気や気配がつながる
写真撮影 藤井浩司 TOREAL
ムッレの森(敷地南側)より、村の特徴が反映された園舎外観を見る
写真撮影 藤井浩司 TOREAL
園庭(敷地北側)より、園舎外観を見る。家のような灯り環境を計画した
写真撮影 藤井浩司 TOREAL
選評
敷地は、新潟県の日本海側に続く砂丘群がつくりだした緩やかな尾根に沿ってひろがる集落のはずれにある。この立地環境を最大限に活かすための建築家の創意が、優れた空間と環境に結実しているのであるが、このことは、三つの観点から評価できそうだ。
一つめは、敷地の微地形に対するセンシティブなサイトプランと建築の平面・断面計画である。尾根に相当する部分の南側エッジのラインに沿って建築平面の東西軸が設定されていて、これにより、きわめて効率的な諸室の配置と主動線を実現すると同時に、屋外への視線を含む室内環境の多様性をもたらした。年齢別の保育室をつなぐL字型の回廊は緩やかに蛇行しつつ外部に開かれ、園庭をへだてて園児の送り迎えの様子を集落の日常風景の中に折り込んでいる。
二つめが、寸法の大きな材を運び込むことができない狭隘な道路条件の立地を逆手にとった構法である。現場で小さな材を組み合わせた木製トラスをつくり、それらを組み合わせる手法が採用されている。頂点が上向きの山トラスと下向きの谷トラス、これら二種類のトラスの交点を間仕切り壁の上にずらして載せることで、各室ごとに表情の異なる空間をつくりだすとともに、壁の上部に抜けを確保し、全体が緩やかにつながる空間のおおらかさが感じさせる。
そして三つめが、敷地の面積的余裕と周辺の多様な環境を保育に活かすための「境界の弱さ」である。園児の安全・安心をことさら強調するあまり、外に対して閉鎖的であることがデフォルトになりつつある保育施設にあって、このコンセプトは新鮮であった。集落に開くことによって、集落全体で子ども達の居場所を見守る、かつてはあたりまえであったコミュニティのあり方を取り戻そうとする姿勢が、施主、保護者、建築家に共有されたことの顕れであろう。「園を村のように作り、村を園のように育てる」という幸せなストーリーが紡がれる場所である。
選考委員 宮城俊作