一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2022 優秀賞Entô
AACA賞2022 優秀賞
Entô

離島”というホテル 人口 2000人の隠岐島・海士町は、2015 年にユネスコ世界ジオパークに認定された。 世界中からの来島者を受け入れるため、「島全体ホテル」をコンセプトとし、この「Ento」を計画した。 皆無といっていい島内建設産業力と、地球へのリスペクトから、本土でほぼ全ての工程が済み、環境問題にも応える全面CLTパネル構法を採用している。部材は3Dモデル通りに精密にプレカットされるが、その加工データはネットを介してやり取りされるため、人と物の移動は最小化され、離島という地理条件によるデメリットを大幅に解消している。また、自主開発したCLT 製モノコック構造の利点を活かして、客室では広い間口を全てガラス開口とし、ジオパークの自然景観を最大限味わえるように工夫している。ホテルのコンセプトやアメニティ、サービスに至るまで、総合的に監修し、純度が高く特別な「離島ならではの世界観」を実現した。

作 者:建築・監理:MOUNTFUJIARCHITECTSSTUDIO/原田真宏 原田麻魚 野村和良
構 造:KMC/蒲池健
設 備:テーテンス事務所/村瀬豊
設備アドバイザー:森田和義
サイン・展示デザイン・ネーミング:日本デザインセンター三澤デザイン研究室

所在地:島根県隠岐郡海士町福井

主要用途:宿泊施設

敷地面積:5,666.21㎡ 建築面積:781.32㎡ 延床面積:1,639.67㎡

作品紹介ビデオを観る
「島全体ホテル」のコンセプトのもと島民が運営全般に関与する地方活性化プロジェクト
写真撮影 鈴木研一
「間口:広く/奥行:浅く」計画された客室は、ジオパークに抱かれたような体験を得る
写真撮影 鈴木研一
既存棟と新築棟をつなぐ「ホール/テラス」。庇付きのイベントスペースでもある
写真撮影 鈴木研一
選評
日本海に浮かぶ隠岐島からフェリーで1時間、Entôのある西島は、島前と呼ばれる人口1万人を割る離島で、海士町の地方活性政策は以前から知られている。
羽田空港を出てから6時間、Entôはフェリーが港に入る直前に島陰から我々を迎えるように忽然と目の前に現れた。フェリーからの外観はグリッド状の木構造のみで驚くほど透明度が高く、「島全体をホテル」と見なすとする町の観光計画を明快に示しているようにシンボリックな建ち姿であった。
設計者が大変に得意とするCLT版の構造が、離島の建築に実にうまくいかされている。全ての仕口・継手をはじめサッシュや設備スリットまでも精密に本土の工場でプレカット加工されて運ばれ、島ではプラモデルを組み立てるように現場施工、短時間で完成したという。CLT版加工工場・海士町・意匠構造設計事務所の間に、人と物の移動のない「リモート構法」で、コロナ禍においても「離島」という地理的制約を受けることなく施工された。この構法を最大限に活かした建築設計の見事な勝利と言える。
シンプルな構法で生まれた客室からの眺望、穏やかな海に向けて全面ガラスの開放感が抜群だ。2015年にユネスコ世界ジオパークに登録されたこの地域の自然に溶け入るように、建築の内外を忘れるような環境との一体感が、身体に五感に染み入ってくるように透明度が確保されているのが素晴らしく、清々しい宿泊の空間と時間が体感できる。
このEntô施設の一部に、ジオパークミュージアムが設けられているが、文化活動は、実にスマートな運営がなされていて知識欲を促してくれる。建築と行政が島の人々とともに渾然一体となって「まるごと島ホテル」として島の活性をもたらす素晴らしい取り組みが随所に感じられました。
建築が単なる建築物ではなく、その土地とのさまざまなグローバルな繋がりや連携、展開を可能とし絡み合って実現していくのは、これからの公共建築の役割やあり方として重要なことと思います。
遠島での新しい建築の有り様を、合理的に美しく具現化したところを高く評価したいと思います。
選考委員 藤江和子