一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2022 奨励賞大阪中之島美術館
AACA賞2022 奨励賞
大阪中之島美術館

大阪中之島美術館は、堂島川、土佐堀川という二つの河川に挟まれた大阪中之島に位置しています。 佐伯祐三や吉原治良に代表される大阪が育んだ作家の作品を中心とした、第一級のコレクションを所蔵する芸術拠点として2022 年 2月に開館しました。 設計コンセプトは、「さまざまな人と活動が交錯する都市のような美術館」です。 誰もが気軽に訪れ、学び、くつろぎ、愉しみ、触発され、そして発信する、いわば「都市空間」のような美術館として設計しています。
建物には「正面」をつくらず、全方向からの人の流れを複数のエントランスで面的に受け入れる計画とし、1・2 階は都市に開いて、美術館を訪れる人以外も普段から利用できるような公共性を提供しています。 印象的な黒いヴォリュームは建物内に立体的に計画された「パッサージュ」によってくり抜かれ、展示室はもちろんのこと、その大きな吹き抜け空間も市民が美術と触れ合うためのデザインとしています。

作 者:遠藤克彦(株式会社遠藤克彦建築研究所)

所在地:大阪府大阪市北区中之島

主要用途:美術館

敷地面積:12,870.54㎡ 建築面積:6,680.56㎡ 延床面積:20,012.43㎡

4階よりパッサージュを見下ろす。1ー5階まで連続した吹抜け空間となっている。
写真撮影 上田宏
北東交差点より。つづら折りのアプローチにより2階へとつながる。
写真撮影 上田宏
4階パッサージュには、ジャイアント・トらやん(ヤノベケンジ)を設置。
写真撮影 上田宏
選評
この建物を最も印象付ける特徴は63m角(正方形平面)×26mの黒いボリュームである。敷地は大阪中之島、堂島川と土佐堀川に挟まれた一角にあり、周りには国立国際美術館、大阪市立科学館など公共の施設が隣接している。北側の堂島川から見ると、周囲の様々な複雑な表情を持つ高層ビル群の中に、黒いボリュームが静かにかつ「凛」として、ひときわその存在を際立たせている。大変印象的な光景である。設計者はこの黒い外観の「黒」を感じさせるため、PC版に玄昌石の砕石と砕砂、黒色顔料を混ぜたコンクリートをウォータージェットで洗い出すことにより、表面の微細な陰を創り出し、さらに表面をコーティングすることにより、深い味わいの「黒」を実現している。
敷地の高低差を利用して2階にエントランスを設けている。それに至るランドスケープは開放的であり、適量の緑とパブリックなアートが配され、美術館に入るエントランスまでの道程が楽しい。入り口を通過して、パッサージュに入ると大きな吹き抜けの空間があり、その一部は最上階の5階まで連続しそれぞれの展示階のパッサージュと繋がっている。この吹き抜け空間には上下階をつなぐ、「上り」「下り」の長いエスカレータが設置され、来場者の「動き」が見えるとともに、この吹き抜けを介して上下階の人々の「動き」や空間の繋がりを感じることができ、楽しい空間でもあり安心感も持てる。 内部の仕上げはプラチナシルバー塗装のスチールルーバーで精密に仕上げられ、展示室に至るまでの心の準備空間とでもいえるシャープで禁欲的な設えである。4階、5階のパッサージュはそれぞれ東西方向、南北方向に開かれ、突き当り全面からの自然光と室内の照明により落ち着いた心地よい空間となっている。 このように美術館に至るまでの道程や展示室に至るまでの道程、滞在空間など、ここを訪れる人々にとり十分に心地よさを感じさせる設えがこの建物の価値を高めている。また、この「黒い」美術館全体が中之島の都市景観の中にアートを感じさせ「潤い」をもたらしているものになっていると評価するとともに、時間の経過とともに変わりゆく都市景観の中でさらに輝きを増すことを楽しみにしている。
選考委員 東條隆郎