一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2022 奨励賞ミュージアムタワー京橋
AACA賞2022 奨励賞
ミュージアムタワー京橋

開放系の超高層─美と技がつなげる都市・環境・アート
東京駅前、京橋に建つ、ハイグレード賃貸オフィスと美術館からなる超高層建築である。1951年当時の最先端建築であった旧ブリヂストンビルを同地に建てた創業者の哲学を継承し、社会環境と技術の先端をデザインで体現した新たな価値創造が求められた。「まちに開かれた芸術・文化拠点の形成」を柱とした特区を軸とし、地球環境や地域への影響の大きい大型建築の使命を最大限に果たすべく、最先端技術によ る環境負荷の削減と同時に、都市空間や人の活動を内に取り込み、水平・垂直に広がる開放系の超高層を目指した。ハードとしては、コンピュテーショナルデザインによる離散型ルーバーをはじめ、無数の本邦初となる美と技の徹底した統合を試みた。アートを軸としたエリアマネジメント活動等の建築の枠を超えたソフトとの融合で、街とアートがつながり、働くことを刺激する、芸術文化を楽しむ体験となる。

作 者:中本太郎 矢野雅規 小林哲也 李宇宙

所在地:東京都中央区京橋

主要用途:事務所、美術館

敷地面積:2,813.74㎡ 建築面積:2,212.83㎡ 延床面積:41,829.51㎡

季節や時間に応じて移ろう、離散型ルーバーによる“光のカーテン”としてのファサード
写真撮影 野田東徳/雁光舎
開かれた美術館を象徴するアーティゾン美術館の展示ロビー
写真撮影 野田東徳/雁光舎
自然とオフィスが地上120mで融合したスキップフロア型屋上庭園
写真撮影 野田東徳/雁光舎
選評
建て替え前の建築は1951年に創業者石橋正二郎が当時最先端のニューヨークのアールデコ建築を彷彿とさせる本社ビルで、ブリヂストン美術館を併設させることで長年愛されてきている芸術文化の拠点を東京の玄関口である八重洲に作り出していた。新しい計画は旧建築からの理念である文化都市の建築の視点を大切にすることを基本としている。隣に新築される新TODAビルと一体となる開かれた美術館によるアートスクエアという空間によって都市の文化的使い手の視点を大切に芸術文化街区「京橋彩区」を作り出す試みはこれからの都市空間を豊かな場所にする貴重な試みで、特区に指定されたことは特筆に値する。
建築は都市型高層ビルの三層構成即ち、中景となる胴体部分を働く場所である賃貸オフィスに、アイレベルからの近景で基壇となる部分の低層部に街に開かれた美術館を配置し、遠景となる頭部は中央通りと八重洲道路との交差点を示す特徴的なスカイラインを持つ魅力的な“建築”となっている。その意味では、低層部の美術館のアクティビティが東京の玄関口である交差点にもう少し現れてほしかった。
オフィス部分においては環境配慮のためのコンピューテーショナルデザインで、「離散型ルーバー」と水平バルコニーで、刻々と変化する太陽光調整、各階個別の自然換気、配管、清掃等のメンテナンスを可能にしている。「離散型ルーバー」は特別に計算された美しいアルミの押し出し金物で、楕円の外形線の中で場所ごとに有効な形態をその多様な組み合わせによって生み出している。設計者の優れた力量と追求によって生まれた美しく有用性を持った外皮であり、時時刻刻変化する太陽の光を繊細に映し出し、都市景観に生き生きとした変化をもたらしている。縦ルーバーが室内からの景色に影響があることへの意見もあったが、実際の空間ではレースのカーテンのように乱雑な周囲の都市景観を和らげ、 集中できる空間となっていると感じた。
クライアントの芸術文化に対する理解と設計者の先端的課題への挑戦の姿勢が融合した美しく優れた建築としてAACA賞奨励賞にふさわしい作品である。
選考委員 堀越英嗣