AACA賞2022 美術工芸賞|歳吉屋―BYAKUNarai―
AACA賞2022 美術工芸賞
歳吉屋―BYAKUNarai―
木曽路・奈良井宿にある築200年のかつての造り酒屋「杉の森酒造」を、宿・レストラン・浴場・酒造りエリアを併設する小規模複合施設へ再生した。奈良井宿は重要伝統的建造物群保存地区に登録されており、約1kmにわたって美しいまち並みが残る。
発見された明治時代の図面や現地に残る痕跡をもとに、商家の特徴的な間取りと照らし合わせ、ハレ/ ケ、ミセ/オクなどの文脈を読み解き客室八室全てに異なるテーマを設定した。
外観や構造体の保存規制の中で耐震性能や温熱環境、防災、遮音機能の向上を図ると共に、古民家
の持つ歴史的背景や空間、架構、設えなどと丁寧に対話を繰り返し、残すべきものと新しく挿入するものを
精選しデザインへと昇華した。また、地場材や漆などの工芸を各所に使用し、宿泊や飲食を通して深く地
域や歴史に触れ発信する場として新鮮な驚きや発見がある空間を創出することを大切にした。
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客室(旧カッテバ):既存天井を撤去し、梁や漆喰壁を現しにて当時の空間を再現した
写真撮影 ONESTORY
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外観:重伝建の外観は保存し、間接照明のみを追加し夜の表構えの表情を柔らかく更新した
写真撮影 ロココプロデュース 林広明
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レストラン(旧仕込蔵):2層吹抜にした空間の奥に再興した酒造りの気配を感じる
写真撮影 TOREAL 藤井浩司
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特筆すべきは、残すべきものと新しく挿入するものの選択眼である。白い土蔵の塗壁と礎石をそのまま庭の路地の一部として取り込む、時代の痕跡を残す古い壁をそのままインテリアに使ったり、時には居間の床レベルを下げることによって外に広がる山の景色が見えるように設えた。一方で、ベッドやソファなどの新しい家具の形状や色、質感に細心の注意を払って古民家再生のプロジェクトが陥りがちな「ジャポニカ・テイスト」から免れることが出来た。加えて、オーナーの家に伝わる掛け軸や屏風などを骨董品として飾るのではなくインテリアの一部として使ったり、昔ながらの小さな神棚を現代に生かしたり、地場の木材を使った風呂場の小さな椅子、有明行燈の修復など、この土地ならではの歴史的背景のある工芸を各所に使って新鮮な和の空間を創り上げたことが、美術工芸賞として評価された。
今後は、手すりのない急な階段や小さな飛び石が連なる庭の改修など、高齢者が過ごしやすい環境を整える工夫も必要となろう。また、敷地の奥に作られた木曽漆の立派なカウンター・テーブルを備えたバーに街道から気兼ねなく入れるようにすれば、地域の方々や他の旅館の宿泊客の唯一無二の高歓の場となるのは間違いない。