一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2022 美術工芸賞奨励賞湯野浜・亀やあかがね
AACA賞2022 美術工芸賞奨励賞
湯野浜・亀やあかがね

山形県湯野浜温泉「亀や」の客室改修。「客室をアート」に見立てた「ギャラリーズ」プロジェクトとして改修された一室が「あかがね」である。
日本海の厳しい環境に対峙してきた風土と歴史を地域固有の「銅板」技術と江戸時代の湯野浜温泉のルーツである「浜の湯壺」を現代に翻案し、宿泊=場の体験のアートとして日常と並走させるそんな思いが込められている。
善寳寺をはじめ、雪深く風雨に耐える出羽三山や庄内の社寺は、美しい銅板屋根が特徴。時間とともに変色する銅板を時間素材の題材とした。銅板曲面で一体となった壁・天井が、湯野浜の風景を映しながら変色し経年変化を重ねていく時のデザイン。
柔らかな銅に包まれるような空間の中に、蟇が傷を癒やしたという浜の湯壺を一室空間におおらかに設置。湯気・湿度の高いバスタブゾーンと適度に乾燥した快適さが求められる寝室ゾーンを気流で分節し、異なる温熱環境を併存させた。

作 者:加藤詞史(加藤建築設計事務所)
岩田英里(岩田組)
阿部公和(亀や)

所在地:山形県鶴岡市湯野浜

主要用途:旅館

敷地面積:4,239.64㎡ 客室面積:40.23㎡ 延床面積:10,124.68㎡

作品紹介ビデオを観る
気流をシミュレーションし湿度の高いバスまわりと適度に乾燥した温熱環境の混在を実現
写真撮影 加藤詞史
壁・天井が一体となった銅板菱葺きが日本海の景色を細かく分節化し、室内に映し出す
写真撮影 加藤詞史
落陽とともにゆっくりと流れる時間に年月を重ね、変色する銅板に手仕事を感じる
写真撮影 加藤詞史
選評
日本海に直接面して建つ創業200年の老舗旅館「亀や」の客室である。鶴岡市の郊外、湯野浜温泉郷にある。わずか40㎡のインテリアデザインという今までにないタイプの応募作品である。
地元固有の銅板技術と「浜の湯壺」の伝統を念頭において、日本海の厳しさと対峙してきた豊かな風土と歴史を、体現できる空間を創ろうとしたものだ。作者は銅板の赤銅から緑青への変化を、体験と時間がデザインされるものだと表現しているが、気候の厳しい外部と違って室内ではどうなるのかは実はよくわからない。ただ素材にこだわって銅板の「屋根」を想起しながら天井に貼り、温泉の浴槽を前面においたという独創には注目したい。
今回最も評価されるのは、旅館亀やの、アートや建築に対する深い造詣と作者や作品に対する大きな思いである。客室を改修するにあたって、亀やは「客室をアート」に見立てたギャラリーズ・プロジェクトを立ち上げた。この「あかがね」をふくめて数人の建築家を招いて一部屋ずつ独自の改修を行うことにしたのだ。またこれらの客室の前にはそれぞれのテーマを展示するギャラリーが設けられていて、部屋に入る前にテーマを予感させてくれる。
この取り組みは長年にわたって続いている。亀や社長のデザインやアートへの深い理解、客室運営の新たな経営方式の工夫、地域への思いなどその姿勢に触れるにつけ、このアートプロジェクトの今後の大きな可能性を強く感じる。銅板のインテリアには若干の物足りなさはあるものの、期待を込めて美術工芸賞奨励賞を送ることとなった。
選考委員 可児才介