AACA賞2023 AACA賞|石川県立図書館
AACA賞2023 AACA賞
石川県立図書館
金沢市小立野の旧全沢大学工学部跡地に移転建替する、石川県立図書館の計画である。
敷地中央に本体建物を配置し、その周辺に広場や庭、回廓、駐車場、緑道を層状に、遊環構造的に計画することで、近隣の住宅街に配慮しつつ良好な図書館環境をつくることを意図した。
建物は地下1階地上4階建の構成で、中心部にはグレートホール(以下、GH)と呼ぶ吹き抜けの大閲覧空間をもつ。
GHは円形劇場を思わせる段状の空間であり、書架と多様な閲覧席からなる各段は1階から3階までがスロープによって接続され、遊環構造の原則により集中と回遊を促すように構成されている。
これに加えて、EV、ESC、小階段、ブリッジによるショートカット動線も同時に備え、本を散策する楽しみと目的の本へのアクセス性を両立させた。
館内には伝統工芸品がGHや工ントランス、窓際閲覧席など様々な場所に展示されており、館内をめぐることで石川県の文化に触れることができる。
天井高を抑えたエントランス交流エリアを抜けて進むと 眼前にドラマチックな大空間が広がり 誰もが思わず見上げる。大きな円形空間を覆う屋根の鉄骨構造がトップサイドライトに透けて美しく、群青色の天井を軽やかに受けている。大空間を取り巻く階段状の連続層からなる円形の空間だが、応募パネル写真で受けた印象は覆されて、中心に向けての求心性は実際には緩く、穏やかな距離感が心地よい。そして、スロープで上階につながる書架と閲覧デスクが注意深く計画されていることと同時に、ラウンジスペースでもあるブリッジによる向かい合ったD型楕円プランが、求心する一点を無くしたことによるものであり巧みだ。円形に連続する書架と利用者相互の空間感覚を侵さない関係や書架や本の配架、表紙見せの展示などがテーマ分類されて配置され、またエリア表示など利用者をサポートするサインや、さまざまな家具類のカラースキームなどが全て連動して計画されていることが一目瞭然に統率されている。スロープに導かれて新しい本に出会うかもしれない空間体験が心地よく、知らぬ間に上階に導かれていくと、 学生向けの学習スペースや研究者向けのエリアなど大小の居場所が用意されている。随所に設けられた読書の場は、窓辺の居場所に最も特徴が現れている。およそ50席ある窓辺のコーナーは、外光が柔らかく入り、なおかつ書架や美術展示ケースなどによって半個室状のコーナーを生み出し、それぞれに選定された椅子によって、全て違うしつらえの心地よさを提供している。こうした細やかな居場所作りが、建築と家具の密接な連携により実現できていることを窺わせ、大空間でありながら上階に行くに従って静寂の閲覧空間となっていることがはっきりと体感できるのである。また、建築、内装、家具、サイン、美術品展示などの全ての要素が重層して、加賀五彩による彩色計画によりコントロールされて、時節の変化も含めて生きた運用がなされ、明快で落ち着きのある開かれた図書館環境を実現している。
建築、家具、美術工芸が総合的に濃密に統合調和した 新しい時代を象徴する図書館であり、AACA賞にふさわしいと決定しました。