一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2023 優秀賞CORNES HOUSE
AACA賞2023 優秀賞
CORNES HOUSE

「積層」から「彫刻」へ
―アフターコロナの都心のオフィスを再考する―

アフターコロナにおいて、経済活動を担うオフィスの在り方が問われている。
空調、照明、エレベーターという設備的な発明により、オフィスは外部環境と関わりなく拡大、積層することが可能になったが、それにより、内外の関係性が希薄になることも多かった。
一方で、アフターコロナの現在、リモートワークとの併用も可能になり、リアルな場の価値がこれまで以上に問われている。
その場でしか体験できない価値。
周囲の環境を丁寧に読み解き、「身体的・物質的」に応答するオフィス。内外の関係を立体的に構築し、場所ごとに異なる魅力を持つ。「積層」から「彫刻」へ。
場所ごと特性は、アクティビティを誘発し、ユーザーが工夫をしながら使いこなすことができる。
ユニバーサルスペースとは異なる不均質なフレキシビリティは、人と場所の能動的な関係を生み出す。

作 者:花岡 郁哉/株式会社 竹中工務店

所在地:東京都港区芝3丁目

主要用途:事務所、ショールーム

敷地面積:1,436.75㎡ 延床面積:8,648.46㎡

作品紹介ビデオを観る
北側外観:周辺環境の魅力を場所ごとに取り込めるように立体的に積層したボリューム
写真撮影 井上登
低層階テラス:首都高速道路と同じレベルにショールームの展示スペースを計画
写真撮影 Nacasa&Partners
オフィス内観:重なり合う軸をインテリアに引き込むことで、外部を感じることのできるオフィス空間
写真撮影 井上登
選評
 この敷地の北側に首都高速がある。その先に芝公園が一望でき、公園の大きな緑の塊の先には麻布・虎ノ門・日比谷のビル群が連立している。敷地の形状はほぼ長方形で低層部に輸入高級車のショールームを配置し、高架の高速道路より高い位置にオフィスフロアを設置している。設計者が「階ごとに変化する周辺環境との関りをデザインする」と表現している通り、各オフィスフロアから最適な周囲の環境を読み解き開口面の位置を設定、その外観は大きなブロックを積層したような変化のある彫刻的なものとなっている。また、ブロック同士がずれることにより、効果的に緑化が施された小ぶりな屋上が形成され、前面道路に沿って建つ周囲のビルの単調な連なりの中で、街並みに変化と潤いを与えている。さらに外装のPC版は、ランダムな太さの縦糸が強調された織物のような表情となっており、縦線の凹凸が作り出す繊細な影が外観の表情を豊かなものにしている。
 室内を観てみると、常に順光で見る外部の緑を感じることができるとても気持ちの良いオフィス空間である。床から天井までのガラスカーテンウォール面に木製のカウンター席を設置し外部を感じながら、様々なワークスタイルにも対応できるようになっている。また、その木製カウンターがさりげなくカーテンウォールの荷重を支えている。この場所で働くワーカーやゲストにストレスを感じさせない伸びやかな空間である。この空間を創り出しているさりげないディテールも緻密によく考えられている。階段室の黒色に塗装された厚手の鋼板で作られたとてもシンプルな手すり壁が、一枚の繋がった板のように見え上下階をつないでいる。この階段室にもカーテンウォールから燦燦と光が入り込み、この手すり壁をあたかも彫刻のようにも見せている。内外共にとても気持ちの良い空間が創られている。優秀賞に相応しい作品である。
選考委員 東條隆郎