AACA賞2023 優秀賞|お宿 Onn中津川
AACA賞2023 優秀賞
お宿 Onn中津川
このホテルは、木材関係事業を展開する地元企業が、地域を盛り上げるべく計画した建築である。
中津川市は観光に特化するほどの観光地の集積はない一方で、工業が産業・雇用を支えている典型的な地方都市だ。
これに対し私たちは、ビジネス客と観光客の取方をターゲットとし、滞在の質は旅館的、規模はビジネスホテル的、意匠は和風や伝統建築を意識しすぎず、丹念に地域性を織り込むことで、地域ならではの建築を作ることにした。
配置は、前面の旧中山道に対してイベント利用の広場を確保するとともに、恵那山の裾野である立地を建築に取り込み、IFの床を奥ほどレベルが上がる構成とした。
内装は、クライアントが製材し、東濃地区を中心とした工場や職人が作ったヒノキの要素を散りばめ、ホテルが地域の木材関連産業のネットワークを束ねるハプになっている。
鮻工から一年、現在では付近の飲食店が当日に予約が取れないほど街に人が来るようになっている。
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全ての共用部が集約された1階では、旧中山道の街路からセットバックした広場を経て、玄関からレセプション、ラウンジ、ダイニング、大浴場に至るまでの空間が、微妙な床レベルの切り替えによって分節されている。ひと続きの空間の中に、多様な場の様相が紡ぎ出され、木曽ヒノキの内装と格天井、足裏の感覚に訴求するなぐり加工のフローリングがそれらをつなぎ合わせていた。広場に面するダイニングは、大きな開口とその先の縁側を介して街並みへと展開する。
一方、2階以上の客室階では、効率的な部屋割りを踏襲しつつも、ビジネスホテルではまずお目にかかれない設えが目をひいた。エレベーターホールの天井を折り上げ、その高さの中で垂直、水平の構造材をそれぞれ耐火木と耐火塗料を組み合わせて被覆することで、意外性のある造形がうまれる。雁行する中廊下のアプローチと共に客室に至る空間体験に記憶に残るインパクトをもたらしていた。
この地域で長く材木業を中心に様々な事業を営んできた施主が、地域再生の旗印に掲げたプロジェクトの一つだということである。であるからこそ、競合する事業と差別化をはかるための方途を、デザインのクオリティに見いだそうとした決断は賞賛に値する。このクラスの宿泊施設に、建築家が関わることの意味と価値が、濃密に凝縮された作品である。