AACA賞2023 奨励賞|聖林寺観音堂
AACA賞2023 奨励賞
聖林寺観音堂
奈良時代の十一面観音菩薩立像(国宝)を安置する収蔵庫です。
かつて大神神社の神宮寺である大御輪寺の本尊として祀られていましたが明治元年の神仏分離令の際、聖林寺に移されました。
観音堂は文化財保存のための「収蔵庫」である一方、信仰の対象としての観音像と向き合う「祈りの空間」です。
我々は創建当初の「取堂形式」の祈りの空間に倣い、収蔵庫を内陣、前室を外陣と位置づけ、参拝者が外陣から内陣の観音像を仰ぐように計画しています。
外陣からはちょうど観音像と視線が合う関係となります。
内陣には宇宙を象徴する半円球の天蓋を計画し、その中心に観音像が安置されることで、仏の慈愛があまねく世界に届けられるよう意図しています。
また天蓋を少し傾けることにより、外陣からは観音像の光背を想起させる構成としています。
「硝子の御厨子」と名付けた独立免震展示ケースにより、これまで見ることのできなかった四周からの拝観が可能となりました。
昭和34年にこの観音像を収蔵するため建てられたコンクリート造の収蔵庫に、地震災害から国宝を守るため、大幅な改修が必要となったのがこのプロジェクトの始まりだった。これを機に、像を守るためだけの収蔵庫を、祈りの空間として生まれ変わらせたいという要望に対して作者は、創建当時の空間構成に倣って、収蔵庫の外に外陣となる前室を新たに増築、収蔵庫の部分を内陣としての空間に設えた。外陣と内陣は階段によって仕切られ外陣から観音像を仰ぎ見るレベル差を作り、使われている吉野杉も色を分けるなどしたことで、内陣の空間がより荘厳に感じられる。
内陣の中で最も心を打つのが、観音の頭上にある明るい宇宙を思わせる真っ白な天蓋である。材質感をなくした白い背景は奥行きが無限に感じられ、観音が無上の存在であることを示しているようである。また国宝として課せられた厳しい条件から一定の空気の条件を満たすべく独立した免震ガラスケースには多くの照明の光が反射しないよう様々な工夫が凝らされていた。またこのケースのおかげで通常の仏像ではありえないような四方からの、また直近からの拝観を可能した。普通はあまりない、色々な照明が用いられているがこの空間にいてもほとんどその存在を感じることはない。しかしそのおかげで明るい中で拝観する観音の美しさは一際のものである。この作品のあちらこちらに作者のこだわりの表現があふれていて、来てよかったと思わせてくれた。