AACA賞2024 芦原義信賞(新人賞)|藤田美術館
AACA賞2024 芦原義信賞(新人賞)
藤田美術館
敷地は大阪市の中心部、明治半ばから大正期にかけて関西経済界で大きな功績を残した藤田傳三郎(1841-1912)の邸宅跡地である。
1911年に建設された収蔵庫の老朽化に伴い建替えを行った。かつて網島一帯が藤田家の大邸宅であった記憶を呼び戻すべく、地域貢献への強い思いのもと、公園や道路との境界に存在していた高い塀を撤去して自由にだれでも出入りできる美術館とした。
広い土間スペースは、イベントや美術品の展示も出来るよう配慮した照明は調色・調光を可能とし多様な利用を想定している。
南向きのハイサイドライトから取り入れる太陽光は、奥行の深い建物内部に季節・時間毎に移り行く自然を体感できる。
日が暮れると共に浮かび上がる庇は大きな羽のように人々を迎え入れる。新たに人が集う場を作る事で、より地域に根差し街のシンボルとなる開かれた美術館を目指した。
所在地:大阪府大阪市都島区網島町
主要用途:美術館
敷地面積:3,305.98㎡ 建築面積:2,171.63㎡ 延床面積:4,214.36㎡
コンクリートの三和土による「土間」を中心に、「茶店」と銘打ったスタイリッシュなカフェと伝統的な数寄屋を現代的に解釈した「広間」によって構成される空間は、誰でもが「茶」を介して知的な文化にふれるための門戸を大きく開いている。一方、かつての収蔵庫から生けどられた鎧戸の扉一枚で土間と隔てられた収蔵展示空間は、極めてシンプルかつコンパクトな直方体のボリュームの中に、実に多様な展示の場を設えることができる工夫がなされている。
そのことを可能にしているのが、展示ケースを内蔵した可動間仕切りの壁である。壁に内蔵された展示ケースの両面を開く、いずれか片面を開く、両面を閉じる、の3パターンとそのレイアウトによって、展示空間の連続と分節を自在に操ることができるため、テーマに最適化された環境を提供できる。また、この可動間仕切りの壁を駆使することにより、展示と並行しつつ展示替えができる仕組みが確立されているので、毎月のように企画展を実施し、一年365日を休みなく開館できるというから驚きである。これも、設計のプロセスにおいて学芸員と設計者による綿密な協働がなされていたことの証左であろう。ミュージアム設計の原点に立ち返ることの意味に気づかされる作品である。