一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2024 優秀賞ROOFLAG
AACA賞2024 優秀賞
ROOFLAG

全国的に木造賃貸アパートの運営・建設事業を展開する企業の展示場。オフィス、カンファレンスルーム、シアター、展示室等を内包するRCブロックに斜めに立て掛かるようにして設置された三角形の木架構が、おおきなアトリウム空間を生み出している。
この最大スパン56mもの木造大空間は、大断面のCLT材128ピースを、全体に相似した直角三角形を単位として組子状に組み上げることで実現された。CLTは壁や床で用いられることは多いが、今回のように梁に使われることは前例がなく、そのため複数の構造実験により物理性状を確認しデータを得て、さらに実大実験も行うことで、安全で堅固な建築として成立することになった。また、CLT材の270×2300mmの大断面が木材でありながらも接合部での確実な応力伝達を可能とし、運搬最大長12mに縛られない、スパンや形状に自由度の高い架構形式となった。
様々に転用可能な、汎用性の高い、新たな木造大空間のシステムを生み出したと考えている。

作 者:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
原田真宏 代表
原田麻魚 代表

所在地:東京都江東区東雲

主要用途:事務所(オフィス)

敷地面積:2,989.95㎡ 建築面積:1,493.55㎡ 延床面積:3,725.57㎡

梁せい2.3mのCLT梁を三角形グリッドで構成し、最大60mスパンに及ぶ都市的スケールの木造大空間を実現
写真撮影 藤塚光政
人と土地の接続が希薄な東雲の地に、拠り所となる強い幾何学をもった"存在"を置くことを考えた
写真撮影 東急建設
CLT材のコンピュータ連動加工機を用いた精密な加工と寸法安定性が組子状の木造大架構を可能にした
写真撮影 東急建設
選評
 この建築は木造集合住宅メーカーによって展示やレンタルスペースのための公共的空間として計画されたもので、最大スパン56mを有する三角形平面の屋根をCLTの格子梁で覆っていることが特徴である。CLTは壁や床に使われることがあるが、このように梁として使うことは前例がなく、幅270㎜、高さ230㎜の部材により彫りの深い三角形の格子梁が形成されている。最大長さ12mのCLTを組合わせて大空間を成立させるためには梁配置と接合形式が要であり、梁配置は卍形を応用した拡張可能な形式を採用し、接合部は曲げモーメントを伝達可能な剛な接合方式を考案して実験によって確認されている。CLTどうしを嵌合させ、独自開発の接合具により組み立てられると接合金物が隠れるという秀逸なものである。背面側のRC構造とのハイブリッドを図ることによりCLT屋根はいわば巨大な庇として成立し、先端部は厚さ80㎜の平鋼柱のみで透明なガラスファサードが形成されている。また屋根形状を生かした光や空気の制御による環境への配慮も行われており快適なアトリウム空間を実現している。 都市部における大規模な木造建築の実現には耐火規定への適合や施工も容易でなかったと推察され、施主、設計者、施工者の粘り強い努力の賜物である。
 この建築の建つ東雲地区は以前からの工場群に近年になって中層や高層住宅が立ち並ぶようになった雑然とした町であるが、この建築によって地域の活性化を図ることも意図された。前面の道路側の大開口のガラス面により町に開かれた空間となり、夜になると道路側に傾斜したガラスの屋根面とガラス壁面とが一体となって町に向かって光を発する仕掛けがつくられた。前例のない特殊な木質構造とそれによる独自の空間が実現された建築自体が巨大な工芸品とも言え、AACA賞としての新しいタイプの作品として評価できるのでは、という議論が審査会で交わされた力作である。
選考委員 金箱温春