AACA賞2024 優秀賞|花重リノベーション
AACA賞2024 優秀賞
花重リノベーション
谷中霊園の入口に150年ある老舗「花重」の再生計画である。敷地内には時代の異なる複数の建物が混在しており、今日に至るまで多くの変遷を辿ってきた。それらの履歴をある時点で凍結するのではなく、建築を生きた状態のまま動的に保存することを目指した。
既存建物は一部を除去しながら庭をつくり、時代ごとに異なる架構を現しとして空間をつないだ。また、伝統的な木造架構が技術の粋を集めてつくられたように、現代の技術を駆使した高精度の機械加工による鉄骨継ぎ手を用い、現代の架構として庭へと伸ばした。新たに加えるエレメントは全体を横断するように配置し、新旧や屋内外、人と植物を連鎖的につなぐことを考えた。
地域の文化を引き継ぐことを目指して、地域の関係者を中心に調査から設計、製作、施工に至る様々な専門家と協働した。本作品は幅広い分野を対象とし、文化的環境を評価する本賞の主旨に資するものとして位置付けられる。
所在地:東京都台東区谷中
主要用途:花屋、カフェ
敷地面積:329.58㎡ 建築面積:134.97㎡ 延床面積:193.11㎡
谷中の町並みは、寺院や二階建ての木造家屋が密に建ち並ぶ独特の風情が残り、住民の町並み保存の意識が強いことで知られている。このリノベーションは、地元の不動産屋、街並み保存活動の人々、様々な人々の関わりが実を結び、設計担当に地元で活動する建築家が担当することになったのだという。
作品の特筆すべきことは"変化し続けることを受容する動的な保存"をコンセプトにしていることである。敷地内に残る150年にわたる歴史の変遷を物語る複数の建物の履歴を丁寧に調査し、使われなくなった倉庫棟など数棟をなくしながらも大事に取捨選択、補修を加えて建築を生きたまま変化し続けることを受容する動的に保存することを目指している。解体中に発見された歴史を物語る柱梁、壁の様々な痕跡が丁寧に補修され残されて生きている。
数棟の建築を撤去することで生まれた空隙が、密集する木造家屋の街に新しい視界と風や太陽をもたらした。そして、この空隙には、新たに高精度な技術と緻密な美術工芸精神を発揮した鉄骨継手による架構をオープンテラスとしてひとびとの集まりの場所を生み出した。この極限までに精緻に加工された60mm角鋼材のシャープで美しい緊張感は、かつての木造建築の記憶を新しいアートに映し替えた建築として提示してくれている、新鮮であり見事だ。
隣家と隔てる塀を全てなくし、巧みな植栽によって新しく生まれた庭となった空隙はじわじわと隣家や近隣とつながり、人々の生活の息遣いが連鎖して、新しいコミュニケーションを産む空間になるだろう。花重の看板は、江戸長屋の入口とともに表通りに変わらず存在しながら、地域の関係者や多くのデザイナーや技術者職人達の結集のもとで生み出され、生き続けるリノベーションの姿を見せていることを、建築美術工芸賞の新しい姿を示唆するものとして高く評価するものです。