一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2024 奨励賞古平町複合施設 かなえーる
AACA賞2024 奨励賞
古平町複合施設 かなえーる

古平町は北海道に位置する人口3,000人を下回る小さな町である。町の9割近くが森林に覆われ、年間で約半分近くが雪に覆われる寒冷地である。豊かでときに厳しい自然環境においては、無機質で均質な空間ではなく、細やかに作りこんだ「練り切り」のような建築がふさわしいと考えた。
和菓子の練り切りが、自然のモチーフや季節感によって人をおもてなし楽しませるように、森の木立をイメージした壁柱は、 彫による光と影、季節による風通し、景色等から異なる表情をみせる。コンクリートには地場産の木目を活かし、各所に木材の持つ柔らかさを実現。職人の手仕事や自然の表情豊かな仕上げとした。
本施設は、周辺との一体的な整備により町の中心に賑わいを生む開発の一環であり、既存庁舎と交流施設を一体化して公共施設を凝縮した計画である。そこには庁舎と交流施設を一体化し練り上げた、異なる目的で訪れた町民同士の世代間の交流の場となることを意図している。

作 者:大成建設一級建築士事務所
高橋章夫 室長
杉野宏樹 プロジェクトアーキテクト

所在地:北海道古平郡古平町浜町

主要用途:複合施設(庁舎、交流センター)

敷地面積:8861.57㎡ 建築面積:1323.59㎡ 延床面積:3887.03㎡

RC造を継承し、次の100年を担う町のにぎわいの中心となる庁舎・交流センターの複合施設
写真撮影 今田 耕太郞
北海道産カラマツ、スチール、ガラス等で職人の手仕事により繊細に作られた空間
写真撮影 今田 耕太郞
外周の構造体に輻射暖房が組み込まれた、温かく眺めのよい町民の居場所
写真撮影 今田 耕太郞
選評
 この施設は、現行の耐震基準を満たしていない、約95年前に建設された旧役場庁舎と約50年前に建設された旧文化会館の機能を併せ、新たに防災拠点機能と長寿命・寒冷地ZEBを目指した町民のための複合施設の整備である。
 敷地は国道から緩やかな勾配のアプローチを登り切った台地の上にある。「木々に囲まれた立地環境であることから、木立のような斜め壁柱のファザードとした」との作者の意図通り、大地から立ち上がった大樹に囲まれ、半年近く雪のあるこの土地の気候風土の中で、非常に力強く生き抜く生命力と安心感が感じ取れるものとなっている。
 一歩内部に入ると中央正面に3層吹き抜けの中に大きな階段が配置され、吹き抜けを挟んで交流センターと役場庁舎が配置されている。カラマツ材とRCが合体したPC梁やカラマツ材を型枠にした木目の美しい打ち放し壁により構成された開放的な共用空間は、様々な方角から入ってくる外光や3000ケルビンの照明により、さらに人にやさしい温かな環境を作り出している。ディテールも緻密で美しい。また、開口部のある打ち放しの壁柱が輻射冷暖房となっており窓際を含め、一年を通して快適な室内環境を作り上げているとともにZEB Ready認証を取得している。さらに壁柱の間の大きな開口部から見える古平港やその向こうに広大な日本海が広がっている風景はとても美しい。この吹き抜け空間全体がとても気持ちの良い上質な空間にできあがっている。
 この打ち放しの壁柱の「Pコン」には、地元の子供たちに描いてもらった絵を「Pコンアート」として埋め込んである。子供たちが共にものを創り出す取組みは小さな試みではあるとはいえ、美術・工芸に触れることの楽しさや、ものを創りだす喜びを知る機会になりえたと思われる。
 何より町民にとり誇りに思えるような心地よい場ができたことは、新たに公共施設を作るうえでの一つのありようを示している。AACA賞奨励賞にふさわしい優れた作品である。
選考委員 東條隆郎