AACA賞2024 奨励賞|十津川村災害対策本部拠点施設
AACA賞2024 奨励賞
十津川村災害対策本部拠点施設
2011年の台風12号の大水害を経て10年以上にわたる復興を経て実現した「災害対策本部拠点」の建築である。地域ブロックを基にした自律共助の防災システムの中心に位置付けられ、災害復興を超え今後の村の経済を持続させるため、林業・建設業・医療福祉業に相互作用をもたらす木造建築とした。
標高の高い村有林の一角で伐採された木は乾燥、製材まで村内で全ての加工を施しており、構造材は設計者立会のもと全数検査を行い所定の含水率・ヤング率であることを確かめてから搬入された。地域産の材料を用いた木造建築の試みは増えてきたが、それを地域の経済圏で完結する試みはまだまだ発展途上である。
十津川での復興で蓄積されてきた社会設計の方向性は能登半島の復興や、人口減少によってシステムの縮小が求められる全国の中山間地域が取りうる方向性を先取りしていると考えられ、本作品はそうした方向性を示す建築を具体化するものである。
所在地:奈良県吉野郡十津川村小原
主要用途:庁舎(事務所)、診療所
敷地面積:782.81㎡ 建築面積:465.05㎡ 延床面積:724.51㎡
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村の歴史を知れば秘境感は人々の心象に"ある距離"を感じさせる。それは近代が蔓延っていない距離である。
この建築は周囲からの切実な存在である診療所も備わった特殊な施設であるが、その期待を囲う建築の存在は異世界の出現と錯覚する。
敷地周囲にある既存の役場や資料館は一定の時期に建設されており一斉に老朽化した建物が一帯化している。
そこに10年の歳月をかけ複雑なプロセスを経て竣工したこの建築は今は周囲に馴染むことはなく、むしろ環境が変化していく物語の始まりに期待する。
空間を織りなす十津川産のスギ材を活用した構造計画には独自の表現が見られる。
アルゴリズムを用いたコンピュータの解析によるデザイン手法は私の専門であるロボット工学やAIの開発現場では日常的だが、これは今後建築設計などでも理解/応用されていくのであろう。空間を繋ぐブレース加工は階高によって使用する角度が変化しているためファサードの一面として見ると均一性をとっていない。むしろそれぞれの状況で合理的な角度の集合によって出現した"分散と協調"を表しており、まさに自然を解析した時に現れる複雑で妙なバランス感に異世界が現れる。
建築計画と構造設計が見事でも現地で施工していく過程が物体としての建築の質を決定する肝心なプロセスであり、このプロジェクトでは地場産業の顔であるスギ材への皆の向き合い方が建築のクオリティを決定付けた感はある。
杉を地場で調達することは難儀であっただろう。しかし地場調達は建築を築く物語の計画としては重要なシナリオである。ここから知恵が生まれイノベーションも必要であったと推察する。その努力は後世に物語を伝える文脈となる。文化創出とは物語の設計である。
そして人工的な照明に照らされていない山中の環境にあるこの館内に夜間の照明が灯れば、外界に光が溢れ異世界感は増す。
しかしここは周囲の唯一の救急病院機能であると考えれば異世界は暖かな光源で辺りに安心感を放っている。
原始,建築は安心の為の住処そのものであった。その事をこの村を襲った歴史の事象を重ねれば再認識できる。
秘境にて。