AACA賞2024 奨励賞|小諸蒸留所
AACA賞2024 奨励賞
小諸蒸留所
浅間山の麓に建つビジターセンターを併設したウイスキー蒸留所。この地域の新たなエコシステムの核となることを目指して計画されました。
世界に誇れるウイスキーづくりとその発信を通じ,資源の循環,環境の保全,この地域社会の持続可能な発展に寄与することを志向しています。建築はこの蒸留所が目指すウイスキーづくりの哲学に倣い,装飾を極力避け,本当に必要なひとつひとつの要素を丁寧に吟味してつくられました。
各材料の魅力を活かしきるべく,鉄は鉄らしく,コンクリートはコンクリートらしく,木は木らしく扱うことを大切にして生み出されたのは,山麓の起伏に沿わせた床の上,ひとつ屋根の下での,最高のウイスキーの製造と体験のブレンドのための場所です。
蒸留設備のショーケースとして仕立てられた蒸留室側と,地場産の東信カラマツに覆われた大きな軒が来客を迎えるビジターセンター側とが,まるで異なる別の建物のような表情を見せます。
所在地:長野県小諸市甲
主要用途:複合施設(ウイスキー蒸留所、店舗、事務所)
敷地面積:3086㎡ 建築面積:1135㎡ 延床面積:1504㎡
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ビジターセンターに入ると、奥の蒸留所にある銅色に輝く大きな2つのポットスチル(蒸留器)が目に飛び込んできます。軒深い建物の真ん中の薄暗い空間から、自然光をふんだんに取り込入れた吹き抜け空間を眺めた時にできる明暗対比により、スコットランドから取り寄せた大きなポットスチル(蒸留器)のある蒸留室に来訪者の視線を集め、最高のウィスキーの製造を目指す姿勢を示しているのです。
ビジターセンターの1階には、バーやレストラン、ショップが、2階には、蒸留設備を眺めながらウィスキーをテイスティングできる会員のための特別室などがあり、ここで作られたウィスキーが全世界に販売され、世界各地からウィスキーファンが訪れる観光地としての発展も視野に入れた活動を知ることができます。
敷地に生えていたカラマツを利用したテーブルや椅子は、木目を際立たせた素直なフォルムです。2階デッキに置かれた長いベンチには、分厚い板の外側の断面が、水平から数度低く傾斜をつけて削られていて、腰に負担なく景色を見ながら座ることができる、思いがけないデザインがされていました。
特筆すべきは、これまで農業と林業に頼っていた地域の人々の生活を活気づける大きな変化を起こしたことでしょう。地域から原材料を購入するにとどまらず、麦汁の搾りかすは飼料として地元の畜産業や農業の飼料として役立て、そこで育てられた肉や野菜はビジターセンターを訪れる観光客に提供する。施主、設計者、地域の人々の連携により、資源の循環、環境の保全、地域社会の持続可能な発展に寄与するエコシステムを構築することができたと言っても過言ではありません。