一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2024 美術工芸賞ジンズホールディングス東京本社
AACA賞2024 美術工芸賞
ジンズホールディングス東京本社

第二創業を掲げるアイウエアブランド大手ジンズホールディングス東京本社の移転プロジェクト。
大企業病にかかった社員にベンチャー魂を取り戻してもらうことを目標に、「壊しながら、つくる」「美術館×オフィス」の2つのコンセプトをもとに地上9階建てのビルを一棟借りしフルリノベーションしている。 「壊しながら、つくる」は、入居するビルが将来解体予定であったことから環境に配慮し、新オフィスに必要な空間を極力既存の仕上げや躯体を解体することで成立させ、全てがお膳立てされた受動的な環境ではないが、使う人が工夫しながら働きたくなるような能動的な環境を目指すものである。また「美術館×オフィス」は、床を抜き仕上げを剥がし文字通り壊したことで生まれた余白を、使う人の発想と創造を刺激する場として再構築構成することを目指すものである。 全体としてクリエイティビティが高まる働き方を実験できる新社屋を提案している。

作 者:髙濱史子
小松智彦

所在地:東京都千代田区神田錦町

主要用途:事務所

敷地面積:704.36㎡ 建築面積:596.21㎡ 延床面積:4525.98㎡

既存スラブを開口して設けた吹抜けには、内階段や空気を浄化するアート「Fabbrica dell’Aria®」を設置した。
プリズムフィルムを貼ったガラス手摺は見る角度により表情を変える。机は仮設資材を用いたもの。
「原っぱ」では自由に「種ベンチ」を昇降させることで様々な働く場のランドスケープが生まれる。
選評
 ベンチャー魂を標榜するアイウエアブランド大手企業の、事務所移転プロジェクトである。が、なんと移転先は再開発対象区域にある、近い将来解体されることが決まっているというビルである。なぜ、そんなところに? という疑問を見事に解決したユニークな作品である。
 解体されるビルであっても床を増やしたり大きな機能を付加したりすれば、当然法的な制約を大きく受けることになるが、このプロジェクトでは「壊しながら、つくる」というコンセプトのもと、既存の仕上げやOAフロア、不要な間仕切りなどに加えて一部の躯体(床スラブ)まで解体することで必要な空間を成立させた。当然法的にも、解体に向けての方向なので際立った制約はなかったとのこと。室内の空間は仮設のイメージがあふれていて、かえって新鮮な雰囲気を醸し出している。 徹底したフリーアドレス制で、現地審査の日が休日ということもあって、事務所内には私物などの雑物は全く見当たらない整然とした環境だった。解体をしてゆく過程の中だからこそできたとも云える。
一方でもう一つのコンセプトが「美術館×オフィス」である。「壊しながら、作られた」伸びやかな空間に美術館の構成が重ねられている。3階にあるギャラリーを起点に空間全体にアートがちりばめられた豊かな美術館の空気の中で、その日に気に入った自分だけのスペースを見つけて想像力を掻き立てる。ここでの仕事は楽しい!という状況が目に浮かぶ。
 原っぱに見立てたみんなが集まるスペース、吹き抜けの真ん中に置かれた空気を浄化する植物のアート、近隣の町と会社をつなぐコーヒーショップのあるイベントスぺース、心のリフレッシュとコミュニケーションのためのサウナ、等々ここで働く人たちの発想や創造力に大いに刺激を与えることのできる、ほかにはない「壊しながら、つくる」オフィス空間の姿を示している。
選考委員 可児才介