一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2019 芦原義信賞(新人賞)淡路島の住宅
AACA賞2019 芦原義信賞(新人賞)
淡路島の住宅

作 者:末光弘和 末光陽子 田中建藏/SUEP.

所在地:兵庫県淡路市

写真撮影 中村 絵
写真撮影 中村 絵
写真撮影 中村 絵
選評
 この住宅は、淡路島北端に位置し、左手に明石海峡大橋が架かり、瀬戸内海を挟んで神戸の街を望む眺望の良い斜面に建ち、海岸通りから見上げると、大きな開口が特徴のひときわ横に長いシンプルでモダンな佇まいである。
 急な斜路を上り視界が一度途切れた後、住宅の妻側入り口に差し掛かると、驚くことに、全く違う見たことのないユニークな姿があらわれた。不思議な大きな彫刻のように、独特の様相をした大きな土のオブジェのように存在する衝撃的といえる建ち姿である。角を丸く塗り込まれた土壁の二つのボリュームの間が切り通しになって瀬戸内海を見通せる。その上に瓦の鎧をまとったような、ひとまわり大きな編み籠状の切妻家形が載っているのである。地元の淡路瓦は多くは灰色だが、ここでは釉薬をかけて土壁と同じ表情を纏わせているから、大地から生えでたように見える。成形された瓦は、スチールフレームに簡単に取り付けられて、塗り込められた土壁の粗密感と呼応して人の手の優しさが感じられる。瓦は、この場所の太陽光の年間軌跡から導き出したという弓形状をしていて、冬は最大限の陽光を取り込み、夏の日射を80%も遮蔽するカーブなのだという。
 計算された曲率と歪んだ弓形状は、見る角度によって思いがけない透過と立体的な変化をもたらし、25ミリの厚みによって柔らかい表情の影を落とす。2階に上がると一挙に視野が解放されて視界の全てに瀬戸内海が開ける。居室部分は下見張壁と大きな木建具のガラスで構成され、土瓦の皮膜がテラスや通路幅を離して連続して繋がり豊かな半屋外空間が成立している。屋上には断熱の土を乗せトップライトやソーラーパネルを巧みに配し、地中熱の利用や斜面に設けられた小さなプールの循環水による徹底したゼロエネルギーをも追求している。更には雨水による家庭菜園や稲作という自然と密着した生活や随所にセンスの良いセルフビルドを楽しむ生活の様子が、住宅の内外に溢れ出て見え、人間の生きる力や生きる喜びという根源的な生活の姿が展開されている。豊かな建築空間とは、豊かな生活とはまさにこのことをいうのではないだろうか。この住宅にはそれが十二分に感じられるのである。
 この地を選び、根を下ろそうとする住み手の哲学が見事に具現化された。深い感動を覚える素晴らしい建築。芦原義信賞に相応しい淡路島の住宅である。
選考委員 藤江和子