一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2020 AACA賞京都市立美術館(通称京都市京セラ美術館)
AACA賞2020 AACA賞
京都市立美術館(通称京都市京セラ美術館)

作 者:青木淳 (青木淳建築計画事務所/基本設計・実施設計監修・工事監修)
西澤徹夫 (西澤徹夫建築事務所/基本設計・実施設計監修・工事監修)
森本貞― (株式会社松村組/実施設計)
久保 岳 (株式会社昭和設計/実施設計)
高橋匡太 (株式会社高橋匡太/ファサード照明)

所在地:京都市左京区岡崎円勝寺町 124

写真撮影 阿野太一
写真撮影 阿野太一
写真撮影 来田 猛
選評
 現存する最古の公立美術館(1933)の姿を後世に残しながらも現代のニーズに応える「保存と活用」をいかにすべきか、という課題に様々な角度から取り組み、新しい美術館のありようを示した作品である。
 まず眼を惹くのは、ガラス・リボンと呼ばれる新しいエントランスとスロープ状広場である。西側広場をスロープ状に掘り下げ、かつての地下室を新たなエントランスにすることで、帝冠様式のファサードを変えずに、発券・案内スペース、売店、ロッカーやトイレといった基本的なサービス機能を充実させる要望に応えた。入館者は1階の中央ホールを経て美術館内を巡る。中庭が解放されて屋外彫刻を楽しめるようになった。中央ホールの2階吹き抜け部には新たに東西エントランスを結ぶブリッジが設計されて美術館内部の回遊性を高めている。残念なのは東エントランスロビー側の2階窓ガラスが鉄板のような素材に置き換えられていたことだ。この窓から光が入る又は窓面が光っていたならば中央ホールがどんなに生き生きとなったか。メクラ窓にする他に解決方法がなかったか惜しむ。特筆すべきは、この西エントランスから東側エントランスに抜けた先に見える「変わっているのに変わらない」新館が加えられた景観と、「変わらないのに変わって見える」日本庭園(1909)の眺めの見事さである。 シャンパンゴールドのステンレスチップを象嵌したGRCパネルの外壁の新館は、最初からそこにあったかのように本館と一体の建物として溶け込んで見える。本館と新館に囲まれた小川治兵衛による日本庭園は、1世紀以上前に作庭されたとは思えない新鮮な輝きを放つ。池にはリニューアル時に造られた杉本博司による「硝子の茶室 聞鳥庵(モンドリアン)」が2021年1月末まで展示されている。改修にあたり本館のファサードに京セラ製LEDの色変換可能型照明が新設された。年間を通して二十四節季を色で表現したり、市民参加によるワークショップで提案されたカラーライトアップが計画されているが、色光を使う際には慎重な判断が欲しい。まず、美術館のすぐ横にある平安神宮の真っ赤な大鳥居のある京都・岡崎の文化的背景、周囲の夜の景観の中で、歴史的建物への光色はどうあるべきかを考える必要があろう。市民がワークショップで提案した案だからと言って、美術館を見る多くの京都市民、観光客にカラーライトアップが受け入れられたと考えるのは早計である。

一般市民の歴史的景観に対する思い入れは深い。建物ライトアップの基本は素材を生かす光色とし、1階旧メインエントランスを舞台にした演奏会を催す時などに、新しい地下エントランスのガラス・リボンと呼ばれるスロープ部分をカラーで演出するなど。地階部分の軽やかさと本館の重厚さの対比を意識して建築の時間の積み重ねを想像させる光を目指し、引き続き検討を願う。
選考委員 近田玲子