一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2020 優秀賞垂井町役場
AACA賞2020 優秀賞
垂井町役場

作 者:(株)梓設計
永廣正邦、日比淳、森一広、簾藤麻木

所在地:岐阜県不破郡垂井町宮代 2957-11

写真撮影 上田 宏
写真撮影 上田 宏
写真撮影 上田 宏
選評
 コンバージョン建築の醍醐味とは、このような仕事に関わることをいうのだろうと、深く感じ入ることができた作品である。それほどまでに完成度は高い。この域に達するには、おそらく、次のような三つの条件がみたされていることが求められるのだと思う。一点目は、before / after で建物の機能が全く異なっていることである。この場合、before のスーパーマーケットに対して、after は町役場であるから、これはもう180度の転換だと言える。それでいて、いずれもこの町に暮らす人々の日常に欠くことのできない存在である(あった)ことは共通しているわけで、この場所と建物は引き続き垂井町民に意識され続けることになるのだ。 二点目は、beforeの建築的特徴がafter においても有効に生かされていることである。低層の大規模小売店舗に共通する平面形状の特徴、つまり柱間が広く見通しのよい物販スペースが確保されていた中央部が、そのまま執務効率と行政サービスの質を向上させる中央集約型の平面計画に継承されている。このことは同時に、町民に開かれた庁舎のあり方を実直に体現することにつながってもいるだろう。そして三点目は、コンバージョンにあたってbeforeの建築の課題もしくは欠陥であると考えられたことが、創造的に解決され、空間化されていることである。この点については、特に二つの側面から評価することができる。まずなんといっても、奥行きが深く、自然採光と通風が期待できない建物中央部の環境を劇的に改善する方法として採用された「環境井戸」の絶大な効果である。4ヶ所に配置された六角形の平面形状をもつヴォイドを通じて導かれる天空光と緩やかな空気の流れは、薄暗い森の中で出会う陽だまりのような暖かさと安心感をもたらす。また、環境井戸の直下が、パブリックスペースとなっていることも特筆されるであろう。 そして、見通しのよい各階の空間の中で、この場所こそが庁舎のコアであることを主張している。続いて、この庁舎が防災拠点施設となるにあたって必要とされる構造補強が、この建築のファサードを極めて特徴あるものに進化させている点が注目に値する。一般に求められる基準の1.5倍の耐震性能を具備するべく付加されたRCのアウトフレームは、扁平であったかつての立面に、端正でありながら彫りの深い表情をもたらしている。リズミカルに連続するフレームがつくりだすフォーマルな陰影は、機能的合理性のみが追求されていた商業施設から、多くの市民が共感する象徴性を纏ったタウンホールへの変貌をいやおうなく実感させるものだ。庁舎の更新が必要となっている地方自治体の多くが財政難にあえぐ中、この町もその例外ではないだろう。その意味において、低コストの事業によって、隔世の感さえ覚えるに違いない庁舎を誕生させたとりくみには、敬服するばかりである。
選考委員 宮城俊作