一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2020 奨励賞松原市民松原図書館
AACA賞2020 奨励賞
松原市民松原図書館

作 者:高野洋平・森田祥子

所在地:大阪府松原市田井城3-1-46

写真撮影 中村 絵
写真撮影 中村 絵
写真撮影 中村 絵
選評
 松原市民松原図書館は農業用水の確保を目的とした「ため池」の中に建てられている。「ため池」の一角を敷地として設定されたプロポーザルで選定された計画であり、「ため池」を埋め立てるのではなく、長い間存在してきた「ため池」の風景を守り、水のある環境と共生することで、図書館もまた当然のごとくこの地に存在していたかのような佇まいを見せている。傾斜のある外壁は、淡い落ち着きのある赤茶系のカラーコンクリート打ち放しであり、池に面して連なる住宅や隣接する親水公園の風景の中に自然に溶け込んでいる。開口部が少なく壁面量が大きいにもかかわらず、建物の大きさや圧迫感を感じさせない落ち着いた親しみの持てる存在感のある外観となっている。
 エントランスから内部に入ると、受付とエントランスホールがあり、そこから1mほど下がった一般開架のフロア全体が見渡せる。奥にある「ため池」に面した開口部からは柔らかな自然光が差し込んでいる。一般開架フロアから水面が見える位置に開口部があればより周囲との自然とのつながりが感じられ、さらに心地よさが増すのではと思われる。書架の配置は手前から奥に向かって徐々にカーブしており、書架の側面のコンクリート版を模した特徴的な側板のサインの向きもそれに倣っており、利用者に期待感を抱かせ人の動きを誘発させると思われる。
 この一般開架フロアから上層部に立体的に連続して大きな空間がつながり、図書館全体の構成が見て取れるようになっている。この空間のどこにいても、自分のいる場所が理解できることが、図書館を利用する人々にとって、安心感につながるのではないだろうか。また、連続した空間の視点の先々に開口部があり自然光が差し込んでいる。開口部が少ないのにもかかわらず閉塞感がない。開口部の位置、大きさや光の量が程よく、図書館空間全体に落ち着いた穏やかな雰囲気を創り出しているのが心地よい。長時間の滞在にも心地よさが持続しそうである。
 このような外観・気積の大きな内部空間を支えているのが土木的な考え方の構造や施工技術である。それは厚さ600mmの外壁と池の水を止水し池の底から構築する技術である。床は鉄骨の柱・梁で支えられ外壁とはピン接合となっており、外壁は鉛直荷重のみ負担する考え方で構成され、自由度の高い内部空間が実現しているのである。
 この敷地に隣接して、松原市民体育館、松原中央公園や松原市文化会館など市の公共施設がある。その中でこの特徴ある市民図書館はこの地区のランドマーク的な存在となり、多くの市民に親しみをもって利用されることが期待される。AACA奨励賞にふさわしい作品である。
選考委員 東條隆郎