一般社団法人 日本建築美術工芸協会

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AACA賞
AACA賞2021 優秀賞A&A LIAM FUJI
AACA賞2021 優秀賞
A&A LIAM FUJI

作 者:建築 MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO、アート Liam Gillcik

所在地:岡山県岡山市北区天神町

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写真撮影 鈴木研一
選評
不思議な作品だ。3層の建物なのだが同じ層の中、田の字に区切られたそれぞれの部分に対しては移動できる開口がない。微妙にずらして配置された田の字の縦の隙間が上下の移動経路になり、吹き抜け等を通して空間がつながる。歩き回るうちに空間の構成が迷路化して、自分の居場所の座標がわからなくなる。なんでそうなのか、説明を聞くうちにさらにわからなくなる。でも構成はかなり単純である。210㎜厚で2.6mの高さのCLTの板を6枚組み合わせて田の字状に組み、これを三段、少しづつずらして重ねたものである。2階の玄関がある田の字の区画の一つに入ると上下への階段が目に入る。下へ降りるとリビングの部屋になる。そこからもう一つの階段で上に上がると、キッチンに至る。そこの別の階段を下ると下に浴室が見える。ともかく歩いていて、なんでそうなるのか不思議で仕方がない。三層の田の字を少しずらしたというのが実はミソのようだ。
作者の弁では通常「ホテルは旅の中にある」のだが、このホテルは「旅を内包する」という。アートによる街づくり運動の「岡山芸術交流」と連動して岡山の日常にアートを仕込むという企ての一環で創られたホテルである。田の字構造を微妙にずらすことによって生まれる上下の接続が、動線だけではなく空間のつながりも創りだし、最上階から取り入れた天空光が1階にまであふれる。まさにアートの空間だ。
一方、CLTの組み立てにはかなり精緻な技術が使われている。作者の豊かな経験と知恵がふんだんに盛り込まれていて、伝統的な嵌め合わせの手法に最新の金物技術を加えて強靭な「田の字」の構造体が出来上がった。
設備的な温熱環境の工夫はもちろんのこと、地球環境に対しても鋭い感覚が示されている。協働するアーティストが作り出したという巨大な文字列が外壁に取り付けられているが、これは折しもノーベル賞を受賞した、日系人科学者真鍋淑郎の創りだした温暖化を示す数式であり、これを通じて地球環境の危機を訴えたいというメッセージになっている。
きわめてユニークで、衝撃的で、建築自体がアートになっている優れた作品である。
選考委員 可児才介