AACA賞2022 奨励賞|台地のFORTE
AACA賞2022 奨励賞
台地のFORTE
夫婦と子ひとりの小さな住宅である。敷地は大阪の地勢的骨格、上町台地のまさにエッジ上にある。
高低差10mもの崖、風致地区による建築制限が敬遠され、長らく都会の空白であった。既存擁壁を壁面後退として再評価し、敷地の短所を長所に反転することで、実質建蔽率が高く眺望のよい魅力的な場所へと化けさせた。敷地に力強く寄り添ったこの建築を「台地のFORTE」と名付けた。FORTEとは、「強調、長所、城塞」という意味である。
台地断面を延長するようにボリュームを持ち上げ、1階を「台地の地中」2階をその「てっぺん」に見立てた。
前者は陰翳礼賛の世界として生活機能を、後者は花鳥風月の世界として自然光や卓越風を心地よく導入した。両世界観のはざまで、家族の気配や朝夕の変化、日常に見え隠れする自然を感じさせる生き生きとした住処を目指した。仕上げは適所に手触りのある材料や、大工の手刻みによる仕事にこだわり、時とともに味わいを増すように心掛けた。
1階のガレージ側から内部に入ると、三和土仕上げの通路状の「通り土間」があり、突き当りの開口部からと二階に通じる軽やかな階段から自然光が差し込み、柔らかな明るさの心地良い空間である。土間に沿って、右側は構造材LVL(38×280)をそのまま表しで利用した収納棚、左側にプライベートな生活空間が納められている。主寝室と奥にある浴室には小ぶりなライトコート「箱庭」からのみ柔らかな光が注いでいる。1階は開口部も少なく抑制された空間の中ありながら「自然の光」や「木」、「通り土間」など巧みな自然の素材の活用が温かみのある空間を創り出している。
「通り土間」やから階段を上がると、三方が大きく開かれた、とても明るい開放的な居間空間が突然現れる。正面は、大阪の西一帯を見渡せ、まさに天守閣にいるようである。天井まである大きな引き戸を全開放すると、テラスと一体となった大きな半屋外空間となり、外の広がりを内部まで取り込んだこの空間は、建物の規模を感じさせない豊かな気持ちにさせる。
特異な敷地の持つ可能性を最大限引き出し、さらに、木質や自然の材料の吟味や、その材料の使い方、緻密で繊細なデティールがこの空間を心地よいものとしている。ダイナミックでありながらとても心地よい空間の「住まい」が実現している。